20:名無しNIPPER[saga]
2019/03/07(木) 06:02:53.31 ID:ThCWRdKl0
紺之介(っ、この小娘……!)
仕方なく折れた紺之介は渋々茶屋へ並ぶも顔には早くも旅に疲れた表情が伺える。この愛栗子の鞘と共に腰に吊るした巾着に重々しくあるのは確かに百両。特に遊びと商いに手を出さぬならば何もせずとも暮らせる金でもあるが、これには旅賃も含まれているのだ。
今までまともな仕事をしておらずその上刀の収集に手入れといったことを趣味にしているためか財産の殆どをそちらに当てている貧乏侍はどんな些細な無駄遣いでも避けたいというのが本音であった。
21:名無しNIPPER
2019/03/07(木) 06:03:56.62 ID:ThCWRdKl0
愛栗子「よかったのう紺。わらわのような絶世の美少女と共に団子を頬張れるのじゃ。このようなことどんな遊廓に転がり込んでも叶わぬことぞ?」
その一方で愛栗子は久しき現代の露離魂町を満喫していた。その顔はとてもこれからどのようなことが起こるとも分からぬ幼刀収集の旅に赴こうという表情ではない。愛栗子の顔にほだされて旅の気が抜けぬよう紺之介はすっかり彼女の高飛車冗句を無視して並んでいる間に控え書きに改めて目を通していた。
紺之介(幼刀は愛栗子を含めて全てで七振り……)
22:名無しNIPPER[saga]
2019/03/07(木) 06:04:28.31 ID:ThCWRdKl0
『大好木に最も愛されたとされる少女の魂が封じられし刀、愛栗子』
『舞うような剣さばきで怒涛で独特の攻め方と切れ味を持つ刀、乱怒攻流-らんどせる-』
23:名無しNIPPER[saga]
2019/03/07(木) 06:05:33.33 ID:ThCWRdKl0
愛栗子「ふむぅ……懐かしい名ばかりじゃの〜」
愛栗子が控えを持つ紺之介の腕を掴んで下ろした。
紺之介「この控えは封じられた幼刀の順に書かれてるらしいな。やっぱりお前が一番大好木に可愛がられてたのか」
24:名無しNIPPER[saga]
2019/03/07(木) 06:07:44.81 ID:ThCWRdKl0
愛栗子「好かれておったのは事実じゃろう。大事にされておったのも事実じゃろうて。しかしそれは他のやつらも同じ……そしてわらわは美し過ぎたが故に最も将軍様の愛からは遠い存在じゃったのではないかの」
またも高飛車冗句かと一瞬呆れかけた紺之介であったが愛栗子の表情が先ほどのものと全く違うことに気がつき思わず詳細を求めた。
紺之介「どういうことだ?」
25:名無しNIPPER[saga]
2019/03/07(木) 06:09:17.11 ID:ThCWRdKl0
愛栗子は掴んでいた紺之介の腕を更に引いて抱いてみせた。
愛栗子「のぅ、紺……もしこの身体でもまだ叶うならばわらわはまことの恋愛というものをしてみたい。心から人を愛してみたいのじゃ……おぬし露離魂の持ち主なのであろう? ならばここは一つ刀集めなぞやめてわらわと駆け落ちしてみぬか?」
26:名無しNIPPER[saga]
2019/03/07(木) 06:11:55.64 ID:ThCWRdKl0
紺之介「それは劇場の見過ぎというやつだ。それに俺には少女を愛でる趣味どころかもはや女を抱くことすら十一のときに飽きている」
愛栗子「なんと!」
紺之介「俺が子どもの頃はまだ武士が刀を握るだけでそれなりの地位を保てていた時代でな……父は護衛業一本で銭を重ねて母は無理することもなかった。そのとき父は何人かの妾を雇っていて、その内の三人くらいを十のときに俺も頻繁に抱かせてもらっていた」
27:名無しNIPPER[saga]
2019/03/07(木) 06:12:44.47 ID:ThCWRdKl0
女に飽きた理由以降は完全な自分語りであったがその時なんとなく紺之介の口は饒舌となっていた。彼は全てを話した後、誰かに自分の話をしたのは初めてだったことを思い出した。
紺之介(唐突に刀収集の趣味や剣術を買われたり、誰かに自分語りをしてみたり……俺もまた慣れん風に乗せられているのか。何十年ぶりにこの地に足をつけたこの小娘とさほど変わらんな)
28:名無しNIPPER[saga]
2019/03/07(木) 06:13:45.09 ID:ThCWRdKl0
愛栗子「ほぉ〜? しかしそれを聞いて確信したわ。おぬしやはり露離魂じゃの」
紺之介「俺は刀には酔っても女には酔わん。お前を解放できたのはお前を惚れたわけではなくあくまで幼刀愛栗子-ありす-に惚れたからだと考えている」
愛栗子「それはありえぬ。露離魂を持つ者は例外なく童女を好む。昔抱いたのがどのような美女だったかは知らぬが『少女』の味はまだ知らぬであろう……?」
29:名無しNIPPER[saga]
2019/03/07(木) 06:18:36.55 ID:ThCWRdKl0
紺之介「っ! 伏せろ!」
反射的に愛栗子を抱き寄せて地に伏せる。すると彼らの頭上を短いドスのようなものが通り抜けていきそのまま地に落ちた。刃物が通り抜けたその後には不穏な緊張感だけが残り彼ら以外の茶屋の客列は悲鳴嬌声を上げて散り散りとなった。
愛栗子「お、おぉぅ……? 思ったより大胆にきたのぅ……」
30:名無しNIPPER
2019/03/07(木) 06:21:06.53 ID:ThCWRdKl0
丸刈りの男「そいつ、幼刀なんだろ? ウチの宝刀マニアがその兄ちゃんの腰につけた碧色の鞘に目ぇつけてよ……それを大人しく譲るってんなら痛い目には合わせねぇぜ?」
紺之介「いかにもといった連中だな。白昼堂々しかも民の集まる茶屋でとは……直ぐにでも警備隊が飛んでくるぞ?」
丸刈りの男「それまでに終わらせるだけの話よ」
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