36: ◆PeRWG5nqdc[sage saga]
2019/01/11(金) 13:51:05.50 ID:piIM8FBL0
土曜日、図書館で佐藤さんと待ち合わせ。
佐藤さんは僕を見つけると「おーい、ひさしぶり!捻挫少年ー!」と手を振って歩いてきた。
2週間しか経っていないが、かなり久しぶりに感じた。
37: ◆PeRWG5nqdc[sage saga]
2019/01/11(金) 15:22:05.83 ID:piIM8FBL0
「捻挫少年すごいよ、全体で30点くらい上がってる。」
「褒めてます?」
「いやいや、そこは素直に喜ぼうよ。実際に点数は上がってるんだし。」
「今までと比べて結構勉強したつもりだったんですけど…」
38: ◆PeRWG5nqdc[sage saga]
2019/01/12(土) 18:22:29.68 ID:mYk8szNr0
暖かい風が構内を吹き抜けて、西日がグラウンドと教室を茜色に染めている。
真新しい鞄と制服を着た学生が増えたこの学校の最上級生になっても、自分自身には何も変化を感じていない。
ただ、受験という壁が迫ってきているだけのようだ。
こう思うと入学のときから、部活で面倒をみてくれた先輩たちはどんなに頼もしかっただろうか。
39: ◆PeRWG5nqdc[sage saga]
2019/01/12(土) 18:23:03.40 ID:mYk8szNr0
テスト期間に行ったボーリングでハンデと言って左手で投げて、あっけなく惨敗した鹿島には、残念賞として新しいグリップと安全のお守りを贈っておいた。
友人のラケットにはその新しいグリップが巻かれ、かばんにはお守りがついている。
成績は同じぐらいでパッとしないが、テニスにおいては中々センスのある彼には怪我だけはしてほしくなかった。
真剣な顔で黄色いボールを追いかける友人の背中を見ながら、今日もテニスコートの脇を抜けて図書館へと足を向ける。
40: ◆PeRWG5nqdc[sage saga]
2019/01/12(土) 18:24:33.13 ID:mYk8szNr0
春の晴れた土曜日は心なしか開架室も明るく、大学全体に活気が戻ってきたようだった。
昨日の夕方はキャンパスの至る所で、大学生が土日の新歓に誘うためギラギラさせて新入生を探していた。
41: ◆PeRWG5nqdc[sage saga]
2019/01/12(土) 18:26:06.27 ID:mYk8szNr0
「もしかして元々勉強嫌いじゃなかった?」
少し伸びて肩下ほどの長さになった髪を手櫛で整えながら先生は言う。
「んー、そうかもしれません。自由研究とか自分の好きなことを調べるのは好きでした。」
「へー、だからあんまり文句も言わずにしっかり勉強してるんだね。塾の生徒の中には高校3年の夏を過ぎても、言われてしかやらない子もいたから。」
42: ◆PeRWG5nqdc[sage saga]
2019/01/12(土) 18:26:41.13 ID:mYk8szNr0
春も過ぎ去って、だんだんと湿気と暑さが辛くなってくる。
が、図書館の中はいつも一定の湿度と気温が保たれているため、とても快適である。
1階の休憩室でこちらの要求を無視して、一方的に買ってもらった甘ったるいイチゴオレを飲みながら、佐藤さんと一息ついていた。
43: ◆PeRWG5nqdc[sage saga]
2019/01/12(土) 18:33:25.14 ID:mYk8szNr0
横でクスクスと笑っている彼女を見た時、不思議とこの大学に入りたいと思った。
自分もこの大学に入れたら、楽しく過ごせるかもしれない。
テニスが上手くなくたって、勉強が出来なくたって、こんな風に笑って過ごすことが出来るかもしれない。
44: ◆PeRWG5nqdc[sage saga]
2019/01/12(土) 18:34:17.28 ID:mYk8szNr0
「ねぇ、佐藤先生。」
「ん?どうしたの?」
「僕、志望校はこの大学にしようと思います。」
「え?」
45: ◆PeRWG5nqdc[sage saga]
2019/01/12(土) 18:34:50.69 ID:mYk8szNr0
「じゃあそろそろ休憩終わりにしよっか。」
佐藤さんは携帯で時間を確認して腰を上げた。
僕も甘ったるいイチゴオレの空き箱を捨てて、腰を上げる。
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