魔王「停戦協定を結びに来た」受付「番号札をとってお待ちください」
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5: ◆yufVJNsZ3s
2018/12/31(月) 21:40:11.59 ID:sCIvJdmA0

 人工妖精を監督しているのはどうやらエレメンタルのようでした――おっと。今は「聖霊」と呼ばなければ差別だなんだのうるさい時代なんでしたっけ?
 あんまりにも馬鹿らしい話にも思えましたが、あたしも「長耳」と揶揄されるのは気持ちがいいものではありません。精霊族もエルフ族も、きっと根幹は同じなのでしょう。ただ互いを理解できないだけで。
 精霊が人工妖精たちに指示を出すたび、苛々しているのか、口の端から火の粉が舞います。

以下略 AAS



6: ◆yufVJNsZ3s
2018/12/31(月) 21:52:00.37 ID:sCIvJdmA0

 興味のないことにはとことん無関心を貫くのがエルフ流の生き方。あたしは随分と長い間、里から離れて暮らしていますが、そういった価値観は変えられずにこんなところまで来てしまいました。
 そうです。大体の話、あたしはアトレイの停戦協定にさえさして興味はなくって、ならばなんのためにこんな敵地のど真ん中へと足を運んだかと言えば……。

 鼻をヒクつかせます。スパイスが火に炙られる芳ばしい香り。上薬草の爽やかさ。熟れた果実の甘味と酸味。魅力的なにおいが風に乗ってあたしのもとへと来ているじゃあありませんか!
以下略 AAS



7: ◆yufVJNsZ3s
2018/12/31(月) 21:58:28.95 ID:sCIvJdmA0

「そろそろ食事時じゃないですか? アトレイだってお腹空きましたよね? なんか買ってきますよ」

「わかった、わかったよ。こっちも、まだ時間がかかりそうだ」

以下略 AAS



8: ◆yufVJNsZ3s
2018/12/31(月) 21:59:04.84 ID:sCIvJdmA0

 庁舎の広間からアーチ状の欄間をくぐり、あたしは外へと出ます。勿論鼻をくんくんとやりながら。
 外は石畳が敷き詰められていて、まず左右に曲がる道と、そして真っ直ぐ先に大きな広場があります。左右に進めば別の建物へと行きつくようでした。そちらには興味も用もありません。
 匂いにつられて、前へ、前へ。

以下略 AAS



9: ◆yufVJNsZ3s
2018/12/31(月) 21:59:58.70 ID:sCIvJdmA0

 四大種族のうちが一つ、人間。いま、あたしの前でわちゃわちゃとしているこいつらは、「国」とかいう大きな共同体の中でもっぱら生活をしているそうです。
 エルフにも共同体という概念はあります。ただしそこはあくまでも小規模集団。その性質は大きく異なっていました。

 優劣の問題ではなく、それこそ生物としての特性の問題。人間は個々の力量で言えば四大種族のうちで最も非力だと言えます。力が弱く、魔術的な素養も個々人で大きくばらつきがある。そんな彼らが生き延びるための手段として、連帯を択んだのは納得がいく帰結です。
以下略 AAS



10: ◆yufVJNsZ3s
2018/12/31(月) 22:00:47.98 ID:sCIvJdmA0

 あたしは歩きながらすれ違う人間を横目で観察し続けます。

 陽気に中てられて実に朗らかな笑顔。非戦闘員の日常なんてのは、案外こういうものなのかもしれませんが、生憎あたしには縁のないものでした。
 ここは魔界との境界線からはかなりの距離が離れています。人間には翼は生えていません。転移魔法もおいそれとは使えないでしょう。千里眼もなければ、遠くのことを我が身のように感じるのは、きっと難しいのです。
以下略 AAS



11: ◆yufVJNsZ3s
2018/12/31(月) 22:01:24.15 ID:sCIvJdmA0

 と小首を傾げようとして、思い至ります。そうだ、人間たちは「通貨」とやらを流通させているんだ。完全にあたしは頭から抜け落ちていました。
 兌換のための証書であり記号。あたしの辞書にはない言葉。思わず戸惑ってしまいます。

「あ、その、いま、なくって」
以下略 AAS



12: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2018/12/31(月) 22:02:09.60 ID:sCIvJdmA0

 取り出した魔術符に刻まれた式を、おじさんは矯めつ眇めつしていましたが、すぐに首を横に振って、

「いやいや、俺はそんな冒険者じゃあねぇからな、腕と脚がってなぁ……。それに、申し訳ないが、知らんやつの治癒魔法なんて怖くて使えねぇよ。
 嬢ちゃんはエルフの、なんだ、おのぼりさんか? それでも金を知らねぇのは珍しいが、ならまずは、庁舎にいって換金してもらうといい。ここをまーっすぐ歩いていくとある、石造りの立派な建物だ」
以下略 AAS



13: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2018/12/31(月) 22:02:43.49 ID:sCIvJdmA0

 それも実に魅力的な提案に思えましたが、しかし、のんびりできるというほどには時間がないのもまた事実。アトレイはそれほど食事を必要としませんし、余ってしまうでしょう。
 鉱瘴で支払えるならばそれに越したことは勿論ありません。あたしには大して必要のないものです。
 それをおじさんの手のひらに乗せると、おじさんは慎重にそれを前掛けのポケットへと入れました。瘴気が年月をかけて固形化したそれは貴重な品です。魔道具屋か、あるいは鍛冶屋などにいけば、そこそこの貴重なものとして扱ってくれるでしょう。

以下略 AAS



14: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2018/12/31(月) 22:03:45.03 ID:sCIvJdmA0
* * *

 あたしの手にはほかほかの串焼きが二本あります。茶色いほうはタレに付け込まれた魔ブルゲー。桃色の肉の隙間から白い脂身が覗いているのは、軽く塩を振って炙られたブルゲー。どちらからもいい香りが立ち上っています。
 冷めないうちにと小走りでアトレイのもとへとたどり着くと、彼はあたしが戻ってきたのにも気づかぬ様子で、紙を目の前になんだか唸っていました。

以下略 AAS



15: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2018/12/31(月) 22:04:19.90 ID:sCIvJdmA0

 差し出された書類は上から順に埋められていましたが、真ん中より少し下あたりから空白が続いています。具体的には、職業欄を皮切りに。

「職業欄に魔王って書いてもいいかな?」

以下略 AAS



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