47:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:19:19.63 ID:TXxgAIfuO
夏の長い年でした。
八月も後半になりましたが、いまだ健在の暑気が寝起きから汗を滲ませます。
ひとり部屋となってしまった私室で、私は朝日の中に目を覚ましました。身体の芯に痛みを覚えましたが、気づかなかったふりをしました。
48:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:20:03.07 ID:TXxgAIfuO
――『ハッピー・バースデイ』
49:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:20:44.64 ID:TXxgAIfuO
その手書きの字の特徴に心臓が跳ねました。
いったいどうして。どうやって?
混乱する心中もそのままに、私は慎重にラッピングを解きました。包装紙の下には、メーカーのロゴも何も印字されていない、真っ白い箱。
50:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:21:49.95 ID:TXxgAIfuO
こぼれる涙につられるようにして、抑え込んでいた痛みと感情が溢れました。笑う余裕なんてもうなくなって、私はただひたすらに、悲しさと寂しさを彼女の寝台に吐き出しました。
居なくなってもなお、私は貴女にいただいてばかりでした。
数え切れない恩が胸に浮かぶごと、私の中の貴女の領域が大きくなる。やめてほしかった。潰れてしまいそうでした。募る彼女への想いが、そのまま彼女を失ったことへの痛みに置き代えられます。
51:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:22:16.61 ID:TXxgAIfuO
主よ。貴方の定めたセイラムの運命は、
本当に、正しかったのですか?
52:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:22:53.83 ID:TXxgAIfuO
私は、ブローチを胸元に付けました。手を添えると、安らぎを得られるように感じました。
鏡に映る私は、目元が赤くなっていました。それをからかい笑うようなひとは、もういません。
部屋を出ると、神父様が待っていました。
53:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:23:59.29 ID:TXxgAIfuO
――私には姉がいました。
その洗礼名をセイラムといいます。
実姉ではなく、ただ先達としての存在であったことから、私が姉と思い慕っていた方です。彼女もまた私のことを、実の妹のように可愛がってくれていました。
54:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:24:36.01 ID:TXxgAIfuO
私はクラリス。
いまだ未熟な身で、きっと誓願を経てもなお、セイラム、貴女のように在ることは到底できないのでしょう。
けれど、貴女が生きたこの場所を、貴女と同じく愛していたいと、心からそう願っています。
55:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:25:11.25 ID:TXxgAIfuO
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あれから、二年という月日が過ぎました。
セイラムの脱離は教会の運営にきわめて大きな影響を残しました。収入の大きな部分を補っていた彼女がいなくなってしまったのですから、それも当然のこと。借り入れていた金額は日増しに大きくなり、返済は当然のように滞って――教会は物件として差し押さえられ、ついには使用を禁じられました。
56:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:25:53.98 ID:TXxgAIfuO
青空の下、花の落ちて緑だけが美しいバラ園の中、私はCDプレイヤーの停止ボタンを押し込んで微笑みます。
「ふふ、素晴らしい合唱でしたね。きっと、神様にも届いたと思いますよ。今日はこれでおしまいにいたしましょう」
聖歌隊の子供たちは、邪気のない顔で私に別れと再会の約束を告げ、帰途に着きます。その彼らに、次の日曜日もまたこの場所でと、そう伝えなければならないのがただただ辛い。
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