37:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:10:24.99 ID:TXxgAIfuO
扉を開けてすぐ、神父様とセイラムが食卓に向かい合って座っていることに気付きました。
何があったんですか――? 軽い気持ちでそう訊ねようとして、ふたりの顔にやっと目を惹かれ、半ばの眠気はひと息に消えて失くなりました。
悲痛と、虚無。
38:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:11:03.80 ID:TXxgAIfuO
私は聖堂に身を移して、あとのふたりのシスターと、しめやかに時間の過ぎるのを待っていました。
やがていつもの起床時刻を過ぎ、定めている朝食の時間を過ぎても、セイラムたちは食堂から出て来ませんでした。
もうしばらくが経つと、仕事があるからと、一緒に待っていたおふたりが聖堂から出て行きました。
39:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:11:41.40 ID:TXxgAIfuO
それでも、どうか……万事が、よろしきを得られますように。
40:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:12:35.17 ID:TXxgAIfuO
静かな聖堂を、祈りで充たそうとしました。
咆哮のようなセイラムの声が、静寂を破りました。
「ふざっけんなッ!!」
41:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:13:45.97 ID:TXxgAIfuO
神父様とふたり食堂に戻り、明かされた事情に、言葉を失くしました。
「……そんな」
「信じたくないが、事実だ。本人も認めた」
42:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:15:19.23 ID:TXxgAIfuO
しかしそうだったとしても、聖職者の副業として相応しいと、大衆に受け容れられるものではありませんでした。
「破門……ということでしょうか」
「違う。破門じゃあない。信徒としての一切の権利を――主に祈る資格さえ剥奪するのが、破門だ。そんな心無いことをしてたまるものか」
43:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:16:15.98 ID:TXxgAIfuO
神父様は椅子を倒す勢いで立ち上がり、吠えるように言いました。
「どんな事情があったにせよ、あいつが風俗店で働いていたという事実があって、それを顔の見えない何者かに知られてるんだぞ! ……もしも悪意の元に広まってしまったら、どうなると思う?」
それこそ、破門せざるを得なくなるかもしれない。
44:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:17:01.65 ID:TXxgAIfuO
「……信頼できる私の友人が、関東の方で修道会の代表を務めている」
少しののち、神父様が静かに言いました。
「そこへの、紹介状を書くつもりだ」
45:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:17:36.21 ID:TXxgAIfuO
セイラムは、愛した教会を去りました。
セイラムは淡々と、謝罪と、感謝と、離別の挨拶を口にしました。
私はすがるように、謝罪と、感謝だけを伝えました。
46:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:18:34.71 ID:TXxgAIfuO
日常は、たとえ大切なものが失われてしまったとしても、絶えず回ってゆきます。
回り回る世界の、欠け落ちた部分が身に触れるたびに、私は痛みにうずくまりそうになりました。
欠落したものがあまりにも大きく、多かったことを、日々の中でたびたびに思い知りました。食事のとき、祈りのとき、うたうとき、掃除のとき、ほかにも、数え切れないほど。
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