2:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 17:41:09.86 ID:TXxgAIfuO
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??懺悔を。
??天にまします主よ。
3:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 17:42:46.37 ID:TXxgAIfuO
私には姉がいました。
その洗礼名をセイラムといいます。
4:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 17:43:27.13 ID:TXxgAIfuO
私はクラリス。
いまだ未熟な身で、きっと誓願を経てもなお、セイラム、貴女のように強く在ることは到底できないのでしょう。
5:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 17:44:29.08 ID:TXxgAIfuO
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「こら、セイラム!」
神父様の厳格な声色に、私の名が呼ばれたわけではないのに、私の肩が跳ねました。教会の廊下を先行くセイラムは足を止め、「はい?」と高く抜けたような声を返します。
6:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 17:45:22.14 ID:TXxgAIfuO
流れ弾は不意に来るものです。話を振られた焦りに妙な声を出してしまいましたが、私は借り物の修道服をきちんと着込んでいました。
「シスター・セイラム。私は着崩していません」
「うん。だからほら」
7:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 17:46:32.29 ID:TXxgAIfuO
軽やかな笑い声を残して、セイラムは駆け出しました。廊下を走るのもまた聖職らしさに欠ける行為で、神父様は眉間のシワに中指を添えてため息をひとつ。
「……セイラムのことは、見習わないように」
私にそう言う彼を見るのは、何度めだったでしょう。私は苦笑だけでこたえました。
8:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 17:47:26.89 ID:TXxgAIfuO
私は日本の兵庫にある活動修道会で、修道女としての日々を過ごしていました。
そう大きくはない教会が拠点でした。規模もそれに準じます。神父様に、シスター・セイラムを含めて修道女が三人と、聖歌隊の子供たちがいくらか。そこに私を加えた二十にも満たない頭数のコミュニティ。
正規の誓願を受け入れてもらえる――つまり正式に修道女となれるのは十八歳からと教会法で定められているため、当時その要件を満たせていなかった私の身分には、いまだ括弧書きで見習いという文言が付いていました。
9:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 17:48:36.88 ID:TXxgAIfuO
「よし。こんなものでしょ」
手にしていた雑巾をバケツに放り込んで、セイラムが言いました。隣の掃き出し窓を同じように拭いていた私は、まだ半分ほどが終わったところです。
私は彼女が担当した窓の、桟のあたりを指さしました。
10:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 17:50:27.83 ID:TXxgAIfuO
明けた朝には、早くから近隣に住む子供達が教会の外庭に集まっていました。
私達は規模が規模ですので、そう大きな催しものができるわけではありません。それでも多くの参加者に集まっていただけるのは、ひとえにこの修道会が積んできた篤実さがゆえなのでしょう。
「はーい! プレゼントが欲しい子はこっち集まってね!」
11:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 17:51:13.15 ID:TXxgAIfuO
――あはは! はーい、大事に食べてね。あたしたちが丹精込めて作ったクッキーなんだから!
童話上のサンタクロースさながらに大きな袋から小包を取り出し、セイラムは子供達に配っています。はじめはひとつひとつ手渡していましたが、おそらく面倒になったのでしょう。まるで絵本の描写をなぞるように、途中からの小包は宙を舞って子供達の元へ届けられました。要するに、セイラムは次第に投げ渡すようになっており。
「――まあ、あとで思い切り怒るよ」
12:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 17:52:15.08 ID:TXxgAIfuO
聖堂内にはちらほらと人影が見えていました。そのうちのひとり、ある馴染みの婦人からは、「歌、楽しみにしてるからね」というお声をいただきました。
「はい。精一杯、努めさせていただきます」
「頑張ってねえ。今年もセイラムちゃんが演奏?」
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