12:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 17:52:15.08 ID:TXxgAIfuO
聖堂内にはちらほらと人影が見えていました。そのうちのひとり、ある馴染みの婦人からは、「歌、楽しみにしてるからね」というお声をいただきました。
「はい。精一杯、努めさせていただきます」
「頑張ってねえ。今年もセイラムちゃんが演奏?」
ええ、それはもちろん、と首肯を返そうとしたのですが、「あのねおばちゃん」とサンタクロース衣装のセイラムが割り込んできました。あらかたを配り終えたようで、彼女の抱える袋は張りを失ってしぼんでいます。
「いいかげんちゃんづけやめてよ。あたし成人過ぎて何年経ってると思ってるの」
「あら? ええと……五年くらいかしら」
「そうだよ。もういい大人なんだってば」
「あらあら。でも、わたしにとってはいつまでもセイラムちゃんだわぁ」
ふふふ、と上品そうに微笑まれると、もう返す言葉もなくなったようでした。
婦人が離れていくと、セイラムは脱力するままオルガン前の椅子に腰掛けます。
「……参るなあ、もう。いつまでも子ども扱いなんだから」
「ふふ。そんなにお嫌ですか?」
「嫌でしょお。むず痒いったら」
セイラムは私よりも時期早く、かつ年若くしてこの教会に身を委ねるようになったと聞いています。
先ほどの婦人は、そのセイラムの訪れよりもさらに以前からここに通い続ける熱心な方でした。この場所におけるセイラムの軌跡をすべて知っているひとりなのです。
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