178: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/07/15(日) 23:55:26.37 ID:1DFdeF0E0
私が、人を助けてる?
「そんなわけ……」
「ほたるちゃんのプロデューサーが言ってたじゃない、ほたるちゃんには出来事が自分の影響かそうでないか区別がつかないってさ。スタッフに聞いたんだけど、さっきのステージ、大変だったみたいだね。その起きたトラブルが、ほたるちゃんはまったく関係がないとしたら? 明かりがぜんぶ落ちた真っ暗闇で、音楽が止まって、マイクも壊れて、その中で最後まで歌い続けるなんて、あたしにも、夕美ちゃんにだってできやしない。ほたるちゃんじゃなきゃダメだったんだ。じゃあ、そのときステージに立っていたのがほたるちゃんなのは、ラッキーだったとも言えるよね。もちろん本当のところは、どこまで行っても『わからない』だよ。時間をさかのぼって、もういちどやりなおしてみない限りはね。でもそれはつまり、ほたるちゃんが不幸な出来事だと思ってることでも、ほたるちゃんがいなかったらもっと悪い結果になってたって可能性は常にあるってこと。それだけ覚えておいてほしいかにゃ」
179: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/07/15(日) 23:56:35.32 ID:1DFdeF0E0
「あたしからはこんなところ。まあ、すぐに納得はできないよねー」
志希さんが隣の夕美さんに笑いかける。
「うん、ありがとね」
180: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/07/15(日) 23:57:23.30 ID:1DFdeF0E0
気付けば、私の手はしがみつくように夕美さんのお洋服をつかんでいた。
とめどなく涙があふれた。
喉からは言葉にならない、動物の唸り声みたいな音がもれていた。
なにも考えることができず、こらえることもできなかった。
恥ずかしいという思いも、夕美さんのケガを心配することも忘れて、ひからびて死んでしまうんじゃないかというぐらい泣き続けた。
181: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/07/15(日) 23:59:17.67 ID:1DFdeF0E0
13.
桜舞姫のライブから、1週間が経過した。
「白菊」
182: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/07/16(月) 00:00:27.75 ID:we/MuDDP0
プロデューサーさんが私をじっと見つめる。
「恨まれても文句は言えない。俺に言いづらいようなら、他のプロデューサーか千川さんにでも言ってくれればいいから」
私が前にいた事務所に、私を解雇させるように仕向けたことを言っているようだ。
183: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/07/16(月) 00:01:09.20 ID:we/MuDDP0
プロデューサーさんはきょとんとした顔で、ぱちぱちとまばたきをした。
「……妙な気分」
「や、やっぱり変ですよね……すみません」
184: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/07/16(月) 00:02:38.30 ID:we/MuDDP0
――と、そのとき。
「お届け物でーす」
ガチャリとドアが開き。私はあわててプロデューサーさんの手を離して飛びのいた。
185: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/07/16(月) 00:03:48.16 ID:we/MuDDP0
ちひろさんから封筒の束を受け取る。手が震えていた。私は今日、死ぬんじゃないかと思った。
「検閲は私のほうで済ませておきました」ちひろさんが言う。
「ありがとうございます」とプロデューサーさん。
186: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/07/16(月) 00:04:38.77 ID:we/MuDDP0
ちひろさんが部屋を出て行った。
プロデューサーさんは受け取ったお手紙を読んでいる。
ちらりと封筒を盗み見ると、差出人のところに女の人の名前が書いてあった。
187: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/07/16(月) 00:05:50.25 ID:we/MuDDP0
ある日、『アイドル』というものを見た。
それはテレビの音楽番組で、若い女の人がフリルいっぱいのひらひらしたドレスに身を包んでいた。
彼女は希望の歌を歌っていた。
信じればいつか夢は叶うというような、陳腐でありふれた歌詞。だけどそれは、これまでに聴いたどんな歌よりも私の心に響き、深く深く刻みつけられた。
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