179: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/07/15(日) 23:56:35.32 ID:1DFdeF0E0
「あたしからはこんなところ。まあ、すぐに納得はできないよねー」
志希さんが隣の夕美さんに笑いかける。
「うん、ありがとね」
夕美さんがにこやかなほほ笑みを返して、ベッドから立ち上がった。
「夕美ちゃん、足」
志希さんが眉をひそめ、いさめるように言う。
夕美さんは意に介さずに、厳重にテープで巻かれた足を踏み出す。
「……夕美ちゃんのばか」
志希さんがすねたような声を出す。
私は呆然と立ちつくしたまま、制止することも忘れて、夕美さんが一歩一歩、ゆっくりと近づいてくるのを眺めていた。
夕美さんの足は、テーピングの上からでもわかるくらい、大きく腫れあがっている。
だけどその顔は、いつもと変わらない、穏やかな笑みを浮かべていた。
痛いはずなのに。
「私には、志希ちゃんみたいに難しいことはわからないんだけどね」
夕美さんが私の目の前で立ち止まり、ぱっと花が咲くように笑う。
「私、ほたるちゃんのこと好きだよ」
動揺した。いきなり、なにを言ってるんだろうと思った。
「きれいで、優しい歌声が好き。いつも礼儀正しくて、慎み深いところが好き。おいしいものを食べたときにちょっとだけ見せる、嬉しそうな顔が好き」
歌うように、軽やかに言葉を紡ぐ。
「一生懸命がんばる姿が好き」
夕美さんが私の背中に腕を回し、抱きしめる。
密着した体から、あたたかい体温が伝わって、ぽわんといい香りが鼻腔をくすぐった。
「だからね」と、耳元でささやく声がする。
「いてくれてよかったよ」
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