182: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/07/16(月) 00:00:27.75 ID:we/MuDDP0
プロデューサーさんが私をじっと見つめる。
「恨まれても文句は言えない。俺に言いづらいようなら、他のプロデューサーか千川さんにでも言ってくれればいいから」
私が前にいた事務所に、私を解雇させるように仕向けたことを言っているようだ。
知らされたときは、たしかにショックを受けた。
クビを言い渡されたときは悲しかったし、初めてアイドルをあきらめようとも思った。
だけど、それを知った今も私は、プロデューサーさんに対して恨みや怒りの感情はない。たぶんあの事務所にいたとしても、私がまともにアイドルの仕事をできることはなかっただろうから。
「プロデューサーさんは、変えてほしいですか?」
「まさか」
私はプロデューサーさんの右手を取った。
あの日、スカウトされたときに差し伸べられた手。車にはねられて、救急車を呼ぼうとする私をつかんだ、血まみれの手。
「私のせいで」
ぼそりとつぶやく。
「いつも、ケガしてますね」
そのときの傷はもうない。
代わりに手の甲に新しく、斜めにかさぶたが走っていた。先日私が壊した、ライブ会場の控室を片付けているときに切ってしまったらしい。
「ありがとうございます」
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