187:名無しNIPPER[saga]
2018/06/29(金) 01:34:13.32 ID:CaJ2VfCb0
「……何もないですよ」
「何もって、その何もとはって話になっちゃうけど」
188:名無しNIPPER[saga]
2018/06/29(金) 01:34:51.00 ID:CaJ2VfCb0
俺がいくら訊いても答えないとわかってからも二人の会話は尽きなかった。
話題が急にあちこちに飛ぶ人たちだから半分くらい聞き流していたけれど、
今からする劇の脚本がオリジナルであることだとか、衣装や小道具作りにかなり凝ったということを言っていた。
189:名無しNIPPER[saga]
2018/06/29(金) 01:36:52.72 ID:CaJ2VfCb0
【文化祭 1ー6】
水を打ったような静けさの中で、舞台の幕が上がる。
190:名無しNIPPER[saga]
2018/06/29(金) 01:37:51.13 ID:CaJ2VfCb0
前まではこうではなかったんです、と「わたし」は言う。
そして顔を俯かせ、消え入りそうな声で、
「それがどうしてなのかも、何一つわからないんです」
191:名無しNIPPER[saga]
2018/06/29(金) 01:39:33.03 ID:CaJ2VfCb0
「こんなことに意味なんてないのかもしれないです。──けれど、こうしていないと怖くてたまらなくなるんです」
「忘れたいことばかりでも、わたしは忘れたくはないんです。何の面白みのないようなことでも、それは変わりません」
「あなたがいたときのこと、わたしはもう覚えていません。楽しかった、という朧気な印象しか残っていません」
「だから──そういうふうになってしまうなら、何もないことよりは、何かがあった方が少しでも救われるんじゃないかって考えてしまうんです」
192:名無しNIPPER[saga]
2018/06/29(金) 01:40:17.42 ID:CaJ2VfCb0
場面が切り変わる。
彼女が目を覚ますと、顔を上げた方向から陽が注いできていた。
その光に誘われるままに部屋から出る。
193:名無しNIPPER[saga]
2018/06/29(金) 01:40:53.75 ID:CaJ2VfCb0
「ここの家の子なんだ」
「……はい」
194:名無しNIPPER[saga]
2018/06/29(金) 01:41:24.42 ID:CaJ2VfCb0
「……え、ダメ?」
「……お、お好きにどうぞ」
195:名無しNIPPER[saga]
2018/06/29(金) 01:42:27.98 ID:CaJ2VfCb0
「だって、こうしてちゃんと話せてるじゃない」
目線を合わせて、「わたし」の頭を撫でる。
なぜかそのとき観客席の一部が沸いた。気を取られている間にも、話は進んでいる。
196:名無しNIPPER[saga]
2018/06/29(金) 01:42:56.32 ID:CaJ2VfCb0
「わたし」はエリに会う前の晩はよく眠れなかった。
けれど会うまでに睡眠を取っていたから、最中は眠たげな様子を見せていなかった(二人の会話でそういうものがあった)。
エリと触れあっている時間を反復するように、それまでは椅子の上に置いていた人形を胸に抱えて眠るようになっていた。
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