191:名無しNIPPER[saga]
2018/06/29(金) 01:39:33.03 ID:CaJ2VfCb0
「こんなことに意味なんてないのかもしれないです。──けれど、こうしていないと怖くてたまらなくなるんです」
「忘れたいことばかりでも、わたしは忘れたくはないんです。何の面白みのないようなことでも、それは変わりません」
「あなたがいたときのこと、わたしはもう覚えていません。楽しかった、という朧気な印象しか残っていません」
「だから──そういうふうになってしまうなら、何もないことよりは、何かがあった方が少しでも救われるんじゃないかって考えてしまうんです」
だって、そうじゃないと……と「わたし」は人形を強く抱きしめる。
「ほんとうに何もないのなら、……ずっと、目を閉じ、眠っていた方がいいでしょう」
「でも、そんな単純なことではないんです。それは、わたしだってわかっています」
「楽しいことだって、わたしが見つけていないだけであるのかもしれません」
「……ただ、『ある』を指し示す何かすらないのなら、わたしは……わたしなんて──」
わたしなんて──。
これ以上言ってはいけないと思ったのか、彼女は口元を手で覆う。
数秒の沈黙の後、緊張の糸が切れたようにはっと息をつき、そして自嘲を含んだため息をついて、
「……いえ、ここでやめておきましょうか」
おやすみなさい、と彼女は言う。抱えたものから手を離し、こちらに背を向ける。
わざとらしい欠伸も、眠たげに目を擦るのも、"本当は眠りたくない"という心理を表しているようだった。
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