1:名無しNIPPER
2018/01/31(水) 23:05:52.88 ID:DWbRssyX0
よく、他人から「たくさん食べますね」と言われる。「おいしそうに食べますね」とも。
私が思うに、それは事実であって事実ではなかった。食べることが嫌いなわけでは当然ない。でも、簡単な言葉で済ませて欲しくないという気持ちも、確かに存在している。
私にとって食事はエンターテインメントであり、同時にコミュニケーションなのだった。
「たとえば今日の食堂の日替わりメニューは秋刀魚の蒲焼定食でしょう? これを『あぁ今日は秋刀魚の蒲焼なんだなぁ』で済ませていつも通りのカツカレー大盛り六八〇円を注文するか、それとも『もう秋刀魚が獲れる時期なのね。お、なんと定食のおみおつけが五十円増しで豚汁に変更できるサービスが新しくできてるなんて。なら秋刀魚と豚汁でこれからやってくる寒い季節に思いを馳せるのも悪くないかしら』と思いめぐらせて五五〇円を握り締めるかで、人生のトータルでの幸福度というものは随分と変わってくると思うのよ」
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2:名無しNIPPER
2018/01/31(水) 23:06:41.03 ID:DWbRssyX0
甘辛いタレが存分にかかった秋刀魚の蒲焼をつやつやの白米の上に乗せると、蒸気に乗って得も言われぬ香りが……!
くぅっ……!
「そう思わない? 飛龍」
3:名無しNIPPER
2018/01/31(水) 23:07:13.03 ID:DWbRssyX0
「蒼龍」
視線を向けると彼女ははにかむように笑った。
4:名無しNIPPER
2018/01/31(水) 23:08:02.51 ID:DWbRssyX0
「昼飯時に騒がしいな。飯は黙って食え」
背後から声をかけられた。振り向かなくてもわかる。提督がトレイの上に食事を乗せて立って「いるはずだ。
5:名無しNIPPER
2018/01/31(水) 23:09:39.21 ID:DWbRssyX0
振り向くと目が合った。そして視線のちょうど交わるあたりに丼があって、ラーメンの頂上にちょこんと紅いものが見える。
「本場では紅生姜を乗せると聞いてな」
6:名無しNIPPER
2018/01/31(水) 23:10:06.82 ID:DWbRssyX0
「えー、なになに、どうしたんですかー」
口の周りにカレーがついていた。それを指摘してあげると、飛龍は慌ててナプキンで口元を拭う。
7:名無しNIPPER
2018/01/31(水) 23:10:33.51 ID:DWbRssyX0
食べるという行為に薀蓄や作法は必要ないと思う人が多数存在するのは知っている。決まってそいつらは言うのだ。食通を指して、不必要に食事の価値を高めすぎているのだと。
寿司一貫に数千円。肉一切れに数万円。ワイン一本に数十万円。値段と満足度は比例するのか――答えは否である、と。
さもありなん。気持ちはわかる。どこ産の食材を使っているだとか、何十頭からかき集めて僅かという希少部位なのだとか、あるいは食前にはこれを呑んで肉と合わせる酒はこれでだとか――よくもまぁ本当に、例をあげればきりがない。
8:名無しNIPPER
2018/01/31(水) 23:11:21.37 ID:DWbRssyX0
がちゃり。
執務室の扉は驚くほどに軽く、住人の「よう」という声音も同じくらいに軽い。
提督はリングファイルを数冊開きながら、それに目を通しつつも右手で判子をついていた。器用なものだ、見てもいないのに捺印の枠から少しもずれる様子がない。
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