27:名無しNIPPER[saga sage]
2017/11/09(木) 13:15:59.42 ID:/E20kLoAo
「ただ、かわいいからって。それだけですよ」
そのときの彼女の表情に、私は思わず言葉を詰まらせてしまった。
私が12歳の頃、きっと同じ顔をしていたから。
28:名無しNIPPER[saga sage]
2017/11/09(木) 13:18:23.89 ID:/E20kLoAo
――――
秋口、ありすと放課後を一緒に過ごすことが多くなった。
「母は心配症なんです」と、ありすはよく話した。
29:名無しNIPPER[saga sage]
2017/11/09(木) 13:20:02.69 ID:/E20kLoAo
「ううん、そんなことないよ。先生も、橘さんとお話できて、嬉しいもの」
「そうですか」と、ありすはやっと表情を和らげる。
放課後、私たちはいろいろな話をした。
30:名無しNIPPER[saga sage]
2017/11/09(木) 13:20:42.29 ID:/E20kLoAo
「歌手に……」
引っ込み思案な子だとばかり思っていたせいか、すこし意外な気がした。
けれど、こうして接すると、もともとは活発な性格の子なのかもしれない。
31:名無しNIPPER[saga sage]
2017/11/09(木) 13:21:20.65 ID:/E20kLoAo
「このあいだ、母に話したんです」
「歌手になりたいっていう夢を?」
「はい。オーディションを受けたいって」
32:名無しNIPPER[saga sage]
2017/11/09(木) 13:22:30.06 ID:/E20kLoAo
「だって、反対するじゃないですか、フツウ。
歌手なんて厳しい道で、……それに、調べてみたら私の年齢じゃ、条件に合わないところも多くて」
「ああ、12歳だと受けられないところもあるのね」
33:名無しNIPPER[saga sage]
2017/11/09(木) 13:23:32.45 ID:/E20kLoAo
「反対するのがフツウじゃないですか。
夢みたいなことだって、条件だって満たしてないのに。
母は……ちょっと親バカなんです。話を聞いてすぐ申し込んじゃうし、問い合わせまでしちゃって」
そんな風に、ありすはポツポツと愚痴をこぼした。
34:名無しNIPPER[saga sage]
2017/11/09(木) 13:24:39.04 ID:/E20kLoAo
「橘さん」と、私は彼女の言葉を遮った。
「オーディションが急に決まって、しんどいよね」
「いえ、……あの、私が言い出したことなので」
35:名無しNIPPER[saga sage]
2017/11/09(木) 13:25:55.46 ID:/E20kLoAo
「先生ってすごいですね」
そう言って、ありすは頬を掻いた。
「どうしてそう思ったの?」
36:名無しNIPPER[saga sage]
2017/11/09(木) 13:26:41.66 ID:/E20kLoAo
きっと違う。ありすは誤解している。
たぶん、ありすの母が、ありすをすこしだけ誤解しているように。
けれど、それを知らせることは私の仕事でないような気がして、言葉を飲み込んだ。
教師というのは、こういうとき損な役だ――、と思った。
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