22:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 02:59:19.07 ID:2O49l66V0
釣り場に着くまで一時間くらい、俺はスマートフォンをスピーカーに繋いで、ごく小さな音でフィッシュマンズなどを聴いた。
肇の静かな寝息を邪魔することのないように、ごく静かな音量で。
肇のレコーディングにほとんど携われなかったのが少しだけ心残りだった。
23:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 03:00:54.07 ID:2O49l66V0
運転をしながらだと、肇の寝顔を見られないのが残念でならない。
一度だけ見たことがあるけれど、この子はそれほど可愛らしい顔で眠る。
海が見え、橋をいくつか渡り、目的地に着いた頃には日付けが変わりそうになっていた。
24:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 03:01:57.11 ID:2O49l66V0
☆
午前三時、ピピピ、とスマートフォンが鳴ったのでビクリと身体を震わせた。
25:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 03:02:52.41 ID:2O49l66V0
肇がまだ蕩けた目で俺を眺めていたので、飲むか、と聞いた。
はい、と言って俺の飲みさしを取り、こくりこくりと白いのどを揺らす。
「間接キッスじゃんね」
26:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 03:04:18.62 ID:2O49l66V0
夜の黒いインキが溶け出したように、海と空の境界はおぼろげだった。
午前三時だというのに遠くのビルと、工業地帯がやたらと明るく、作業灯と月が海に揺れていた。
よっこいしょ、と足元にクーラーボックスを置く。
27:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 03:06:01.77 ID:2O49l66V0
しかし、難しいのか。プラプラと眼前でルアーを揺らしたが、今日もボウズ、太公望を気取ることになりそうだな、と思った。
「ハゼ釣り用の仕掛けも借りるべきでしたね」
「いやあ、どちらにせよ変わらないよ」
28:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 03:08:44.62 ID:2O49l66V0
「良いですよね。仕掛けを投げて、波紋が広がって……落ち着きます」
彼女は独り言のようにそう言う。
俺が見惚れていたのに気づいたんだろうか、とびくりとした。ふと、不審者だったときと同じ格好をしていることを思い出した。
29:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 03:10:15.45 ID:2O49l66V0
しばらく、俺の竿には当たりもなく。
三十分ほど投げては巻き、投げては巻きを繰り返している。
一方肇の竿には何度か当たりがあったらしく、合わせを入れては首を傾げていた。
30:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 03:12:35.44 ID:2O49l66V0
「黒鯛?」
「いえ、たぶん根魚ですね」
彼女はギュルギュルとリールを巻く。「美味しいやつだ」
31:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 03:13:35.94 ID:2O49l66V0
わあわあと二人で盛り上がり、バケツにカサゴを入れる。
カパカパとエラ蓋を開き呼吸をしているが、君は明日の味噌汁になる運命であるよ。
彼女は再びルアーを投げた。
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