2:名無しNIPPER[sage]
2017/09/01(金) 22:52:34.13 ID:ZXrrsdaR0
夏の終わりが近づいて、吹く風が人々の頰をやさしく撫でる頃。
郊外の、うらさびれたアパートの一室。
木村夏樹はひどい風邪にかかっていて、重い身体をベッドに横たえていた。
3:名無しNIPPER[sage]
2017/09/01(金) 22:54:32.15 ID:ZXrrsdaR0
咳をすると、やけに大きく音が響く。
咳をしても一人、か。
夏樹は故郷が恋しくなった。
4:名無しNIPPER[sage]
2017/09/01(金) 22:55:28.55 ID:ZXrrsdaR0
今の自分に後悔はない。
けれども、こうも寂しいと、
昔の思い出だけが輝いて、やるせなくなる。
5:名無しNIPPER[sage]
2017/09/01(金) 22:58:52.98 ID:ZXrrsdaR0
携帯には、申し訳程度の心配が添付されたメールが何件か届いてはいるが、
誰も見舞いに来てくれない。
プロデューサーや他のアイドルは、今の夏樹のように、
6:名無しNIPPER[sage]
2017/09/01(金) 23:00:30.36 ID:ZXrrsdaR0
その後夏樹が、半ば失神するような眠りに落ちていた頃、
玄関のチャイムが響いた。
通販でなにか頼んだっけ……。
7:名無しNIPPER[sage]
2017/09/01(金) 23:01:20.24 ID:ZXrrsdaR0
「なんで…」
「住所なら、アンタのプロデューサーに教えてもらった」
そうじゃなくて、と言いかけた夏樹の身体が、床にくずれおちた。
8:名無しNIPPER[sage]
2017/09/01(金) 23:02:25.55 ID:ZXrrsdaR0
拓海は台所と冷蔵庫の中身を見回して、言った。
「ろくなもの食ってないみたいだな…」
拓海はシンクの前で、てきぱきと料理の準備を始めた。
9:名無しNIPPER[sage]
2017/09/01(金) 23:04:07.03 ID:ZXrrsdaR0
「待たせたな」
拓海はスプーンと湯気をたてる皿と持って、ベッドの脇に腰掛けた。
夏樹はまぶしげに目を細めた。
10:名無しNIPPER[sage]
2017/09/01(金) 23:06:12.81 ID:ZXrrsdaR0
鶏肉からでた旨味が、舌に沁みわたる。
ふわふわのたまごが腫れたのどを癒す。
おいしい、と伝えるまえに、夏樹の頰にひとすじのしずくが流れた。
11:名無しNIPPER[sage]
2017/09/01(金) 23:08:47.22 ID:ZXrrsdaR0
見ず知らず、というわけではないが、
自分と拓海には「同じ事務所である」という以外に大きな接点はないはず。
けれども、拓海の見方はちがっていた。
12:名無しNIPPER[sage]
2017/09/01(金) 23:10:57.44 ID:ZXrrsdaR0
「あー…でも」
拓海は頰をかいて、言葉を続けた。
「アタシにとっては、アンタが恩人だってのもあるかな」
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