4: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:08:13.13 ID:fLR/Lwcb0
街灯や店先の乏しい光の下では、彼女の表情の委細までたしかめることはできない。
でも彼女のその立ち姿は心なしか儚げに見えた。
「いや、今年はやめとこかなって思ってます」
5: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:09:14.61 ID:fLR/Lwcb0
「ううん、まだちょっと悩んどったんよ」
「でもまあ、うちも今年はええかな」
先輩はそばに据えられている車止めのポールに腰を預けて、難しい顔をした。
6: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:09:51.90 ID:fLR/Lwcb0
「そう、さっきはお疲れさま」
おれの顔を見て、思い出したように彼女が労ってくれた。
「さっき? なんのことです?」
7: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:10:34.73 ID:fLR/Lwcb0
「うそ。全然お酒も飲まんで、取り持ってくれたと」
ふっと息を吐くように、彼女がにこやかに微笑む。
たったそれだけの仕草で、息が詰まりそうになってしまった。
8: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:12:10.39 ID:fLR/Lwcb0
「でも、折角の飲み会なのに全然酔ってないって、なんか損した気せん?」
諭すというよりは、甘やかすような言い方だった。
自然と、ちっぽけな強がりをかなぐり捨ててしまえる気になれた。
9: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:13:13.79 ID:fLR/Lwcb0
「夏目君、時間ある?」
「はあ、基本的にはいつでも」
そう答えると、彼女がゆっくりと首を横に振った。
10: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:13:50.45 ID:fLR/Lwcb0
「……少し、相談に付き合ってほしかことが、あると」
彼女はそう言って、少しだけ恥じらうように笑った。
しかしその表情には、どことなく陰りが差しているように見えた。
11: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:16:21.50 ID:fLR/Lwcb0
十数分ほど時間を遡る。
サークルの飲み会を終えて各自解散となった後、おれは、最寄りの駅まで真っすぐ向かっていた。
幹事をしていたとはいえ全然酔えなくて、少しだけもやもやしていた矢先、少し前方に彼女の後ろ姿を見つけた。
12: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:20:11.51 ID:fLR/Lwcb0
おれは、彼女のことが好きだった。
13: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:21:43.13 ID:fLR/Lwcb0
丁寧に言葉を選んで話し、相手の気持ちを汲むのが上手かった。
いつも意図的に集団の中央から一定の距離を保ち、なにがしかの意見を求められる時は、常に中立的な目線からものを話した。
顔の輪郭が綺麗で、右目の下に小さな泣きぼくろがあり、くちびるが薄かった。
声は大きくはなかったが聞き取りやすく、笑う時は目を糸のように細めた。
14: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:22:31.10 ID:fLR/Lwcb0
元々は二人とも地方の出身だという程度の共通点しかなかったように思う。
話すようになったきっかけは、はっきりとは覚えていない。
たしか、くだらない映画の趣味が被ったとか、そんな感じだった気がする。
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