10: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:13:50.45 ID:fLR/Lwcb0
「……少し、相談に付き合ってほしかことが、あると」
彼女はそう言って、少しだけ恥じらうように笑った。
しかしその表情には、どことなく陰りが差しているように見えた。
11: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:16:21.50 ID:fLR/Lwcb0
十数分ほど時間を遡る。
サークルの飲み会を終えて各自解散となった後、おれは、最寄りの駅まで真っすぐ向かっていた。
幹事をしていたとはいえ全然酔えなくて、少しだけもやもやしていた矢先、少し前方に彼女の後ろ姿を見つけた。
12: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:20:11.51 ID:fLR/Lwcb0
おれは、彼女のことが好きだった。
13: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:21:43.13 ID:fLR/Lwcb0
丁寧に言葉を選んで話し、相手の気持ちを汲むのが上手かった。
いつも意図的に集団の中央から一定の距離を保ち、なにがしかの意見を求められる時は、常に中立的な目線からものを話した。
顔の輪郭が綺麗で、右目の下に小さな泣きぼくろがあり、くちびるが薄かった。
声は大きくはなかったが聞き取りやすく、笑う時は目を糸のように細めた。
14: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:22:31.10 ID:fLR/Lwcb0
元々は二人とも地方の出身だという程度の共通点しかなかったように思う。
話すようになったきっかけは、はっきりとは覚えていない。
たしか、くだらない映画の趣味が被ったとか、そんな感じだった気がする。
15: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:24:33.96 ID:fLR/Lwcb0
気持ちを伝えようと思ったことは、何度もあった。
しかし、その一歩がなかなか踏み出せなかった。
今のようにお互いにつかず離れずの距離で向き合う、緩い結びつきのような間柄を続けるのも、十分心地良かったからだった。
16: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:25:21.58 ID:fLR/Lwcb0
「相談、ですか。ええですけど」
口にした言葉とは裏腹に、煙のように掴みどころのない感情が沸き上がる。
17: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:26:16.88 ID:fLR/Lwcb0
少し歩いた先にそびえていたのは、瀟洒な雰囲気が漂う、洋風の建物だった。
彼女に追従して重い扉をくぐると、橙色の照明が少しだけ眩しい。
冷房の効いた店内は、異国のような、あまり嗅いだことのない香りがする。
18: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:27:41.71 ID:fLR/Lwcb0
洋酒は日頃あまり飲んでない、と言うと彼女は少し考えて、口を開いた。
「オーヘントッシャンを、ロックで」
耳慣れない可愛らしい名前だったが、ロックというからにはウイスキーなのだろう。
19: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:28:35.38 ID:fLR/Lwcb0
やがてオールドグラスが二つと、ナッツの盛られた小皿がカウンターに置かれる。
琥珀色の液体に浮かぶロックアイスは、小さな氷山のようだった。
小さく乾杯し、すぐに彼女がグラスに口を付けた。
彼女の喉がこくりと動くのを、目を離すこともできないまま見つめてしまう。
20: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:29:45.08 ID:fLR/Lwcb0
「よう来るんよ、このお店」
「一人で飲んどうたい」
彼女の声に、いつもの調子が戻りつつあった。
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