7: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/06(日) 23:47:05.51 ID:ao4zzOCX0
昼休みになって、彼と中庭のベンチまで連れ立って歩いた。
薄曇りの空からぼやけた太陽が、まだるっこしく照らしている。
セカンドバッグからお弁当の包みを取り出すと、彼に突きつけた。
包みを掴んだまま、断りを入れる。
8: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/06(日) 23:48:31.67 ID:ao4zzOCX0
彼は待てないといったように急いで包みをほどく。
器の蓋をかぱりと開けて、彼が嬉しそうな声を上げた。
それはそうだ。だって彼の好きなおかずを、沢山つめたから。
9: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/06(日) 23:49:11.80 ID:ao4zzOCX0
彼がきんぴらごぼうに箸をつける。
あたしはといえば、とても自分の分のお昼ご飯を食べていられるはずもなくて、横目で彼の様子を盗み見ることくらいしかできない。
何度か咀嚼して、彼は飲み込んだ。
だけど、どうしてだか彼は一言も話さない。
10: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/06(日) 23:49:48.16 ID:ao4zzOCX0
「なんとか言ってよ、お願いだから」
「すっげえ、うまい」
11: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/06(日) 23:51:48.44 ID:ao4zzOCX0
「いままでに食ったことないぐらいうまい、」
最初は落ち着いていた彼の声が、徐々に震えてきているのがわかった。
「なんだよあかり、お前こんなに料理うまかったなんて、ああ、くそ、悔しいぐらいうまい!」
12: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/06(日) 23:52:49.69 ID:ao4zzOCX0
あっという間に食べ終えてしまった彼の目線が、あたしのお弁当箱に注がれては、逸らされる。
なにかを我慢しているかのような、でも必死にそれを隠しているような。
あたしはつい嬉しくなって、提案する。
13: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/06(日) 23:53:53.59 ID:ao4zzOCX0
「ごめんな、あかりの分まで食っちゃって」
「いいよ、別に」
「最高だった。まじで舐めてかかってた」
14: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/06(日) 23:54:51.55 ID:ao4zzOCX0
作戦は大成功だった。のかもしれない。
でもあたしは、同時に気付いてしまってもいる。
本当の意味で大成功だというのなら、ここで言うべきじゃないんだろうか。
15: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/06(日) 23:55:46.97 ID:ao4zzOCX0
「……あかりさえ、よければだけどさ」
彼が珍しく、どこか言いにくそうに話した。
「なに?」
16: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/06(日) 23:56:16.60 ID:ao4zzOCX0
「だって、本当にうまかったんだ。お前の弁当が」
気が付けば、あたしのちっぽけな悩み事なんて、どこかに吹き飛んでしまった。
そんなつまらないことなんかよりも、食べたいって言ってもらえることが、今はただ嬉しくてたまらない。
17: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/06(日) 23:57:10.45 ID:ao4zzOCX0
以上になります。
読んでくださって、ありがとうございました。
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