33: ◆SESAXlhwuI[saga]
2017/06/16(金) 19:30:48.01 ID:yFIcZ1s10
この前の時のように、痛みについて追及してこないプロデューサーさんを少し不思議に思いつつ、私は姿勢を楽にする。さっきよりも少しだけ、安心できた。
目を細めて沈黙していると、彼が口火を切った。
「なぁ志保。こんな事は、もうこれっきりにしよう」
「――え?」
「元々、負荷がかかりすぎていたんだ。今回はただの貧血程度で済んだけれど、次は頭を打って倒れるかもしれない。事実、俺が見れていないというだけで、こんな事になってしまっているんだ」
34: ◆SESAXlhwuI[saga]
2017/06/16(金) 19:31:22.30 ID:yFIcZ1s10
言葉を探す。今、この瞬間でプロデューサーさんを納得させられるような意見を模索する。でも、そんな意見見つかるはずもなかった。いや、それを口に出せるはずもなかった。
「そうは言ってもな……」
「プロデューサーさんが教えてくれたから、私はここまで出来るようになったんです!」
必死に、言葉を繰る。量さえぶつければ何とかなるんじゃないか、というそれこそ子供じみた発想。そんなか細い理由でも、今の私は縋るしかなかった。
「一人でやっていたら……私は、もっと大きなケガをしていたと思います。プロデューサーさんのおかげなんです。補助してくれなきゃ、きっともっとムリをして――」
35: ◆SESAXlhwuI[saga]
2017/06/16(金) 19:32:00.26 ID:yFIcZ1s10
――無理はするな。
36: ◆SESAXlhwuI[saga]
2017/06/16(金) 19:32:26.71 ID:yFIcZ1s10
「あっ……」
思いついた言葉が、一瞬で霧散した。彼は自身の顔を手でたたくと、私にゆっくり寝てろと言い残して、部屋を去っていった。私には、それを黙って見送る事しかできなかった。
――きっと、上達するかどうかは関係なかったんだ。
私は、もう取り返せない事象を振り返る。意味がないと分かっていた。それでも、私は考えた。なんで、プロデューサーさんとのレッスンを続けたかったのか。
上達したかったから?それならば、レッスンのやり方を見直してもらうという言葉だけで十分だったはずだ。
37: ◆SESAXlhwuI[saga]
2017/06/16(金) 19:32:58.19 ID:yFIcZ1s10
―――――
――素敵で儚い夢を見ていた。今では、そう思っている。そう思わなければ、自分自身を許せなくなってしまいそうだから。
私は、あの日のようにレッスンルームで自主レッスンを続けていた。あの後、一人での自主レッスンは朝だけ、終業後にレッスンする時は、誰かがついているようにするというルールが設けられた。その理屈から言うなら、彼もわざわざ文句を言いには来ないだろう。
38: ◆SESAXlhwuI[saga]
2017/06/16(金) 19:33:34.02 ID:yFIcZ1s10
―――――
「志保!今日はヨロシクなの!」
「美希さん、よろしくお願いします」
39: ◆SESAXlhwuI[saga]
2017/06/16(金) 19:34:09.12 ID:yFIcZ1s10
「プロデューサーさん、早くレッスン始めませんか。時間、勿体ないですから」
「やる気だな、志保。よし、美希も離れてくれ。レッスン始めよう」
「もー、仕方ないの……後でゴホウビのいちごババロアで許してあげるの!」
美希さんは名残惜しそうに離れると、とぼとぼと私の隣まで歩いてきた。
「ハニーもイジワルなの……」
40: ◆SESAXlhwuI[saga]
2017/06/16(金) 19:34:35.51 ID:yFIcZ1s10
―――――
踊る、踊る、踊る。
練習した成果は確かに出ていた。いつもよりも動きにキレがあるのは分かっていたし、ダンスの途中で息切れすることもなかった。
41: ◆SESAXlhwuI[saga]
2017/06/16(金) 19:35:06.39 ID:yFIcZ1s10
「ねぇ、ハニー!今の、見ててくれた!?」
「ああ、しっかり見てたぞ。流石、俺の自慢のアイドルだな!」
「――!やったやったやったー!」
美希さんはそのままプロデューサーさんにダイブ。プロデューサーさんも、かわさずに受け止める。抱きしめられた美希さんは、心底嬉しそうだった。
――他の人となんて話さないで。
42: ◆SESAXlhwuI[saga]
2017/06/16(金) 19:36:07.53 ID:yFIcZ1s10
歯切れ悪いですが、これでおしまいです
見ていただいた方には多大な感謝を
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