1:名無しNIPPER[sage]
2017/06/11(日) 14:08:51.03 ID:6ZN736J50
アトリエSS
トトリちゃんと別れてしばらく後、メルル本編の少し前のミミちゃんの話です
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2:名無しNIPPER[sage]
2017/06/11(日) 14:10:27.35 ID:6ZN736J50
もぞもぞと寝袋を脱いで穴の中から這い出る。どうやら風は止んだようだ。相変わらず肌を刺すような寒さにうんざりしながら、一面に広がる雪を見渡す。雪と雲と岩だけの景色。
トトリに頼めばこんなに苦労することも無かったろうな。寒さを防ぐアイテムなんて簡単に作ってくれるだろう。
そんなことが頭を過ぎり、すぐに首をぶんぶん振って考えを打ち消す。
3:名無しNIPPER[sage]
2017/06/11(日) 14:10:53.32 ID:6ZN736J50
ざくざく。ざくざく。
「あと3日ってとこかしら」
とにかく歩を進めなければ。雪原に入ってから既に4日経っている。
4:名無しNIPPER[sage]
2017/06/11(日) 14:11:24.28 ID:6ZN736J50
火を起こすと洞穴の中にふわあっと暖気が広がる。手を火に翳すと寒さに痺れた感覚がじんわりと蘇っていく。背嚢から鍋を取り出し火にかけ雪を溶かし、戻した干し肉と乾パンを食べる。
「まずい」
にちゃにちゃした干し肉とやたらと硬い乾パンはお世辞にも美味しいとは言えなかった。強引に水で流し込む。トトリの作ってくれたパイが恋しい。
5:名無しNIPPER[sage]
2017/06/11(日) 14:13:52.74 ID:6ZN736J50
「ごめんなさい、ミミちゃん」
今にも泣き出しそうな表情でトトリは告げてきた。トトリはアールズからの派遣に応じた。結果だけを見ると私との約束を破ることになる。
「仕方ないわよ」
6:名無しNIPPER[sage]
2017/06/11(日) 14:14:34.95 ID:6ZN736J50
いつも通り寝覚めは最悪だ。何度こんな夢を見ただろうか。トトリと別れてから、見るのはトトリに関する夢ばかりだ。
こんな時が来るのを想像しなかった訳じゃない、いつまでも一緒にはいられない。思っていたよりも少し早くその時が来ただけだ。もうよそう。私はただ歩いて、歩いて、依頼の魔物を狩ればいいんだ。
背嚢に荷物を積み洞穴の外に出ると、忌々しい寒気が私を襲う。構わず足を前に進めることだけを考えろ。一人でやるんだ。
7:名無しNIPPER[sage]
2017/06/11(日) 14:15:04.12 ID:6ZN736J50
目的地に近づくほどに吹雪は酷くなっていく。歩いて歩いて、吹雪が強くなれば穴を掘ってやり過ごす。吹雪が収まればまた歩き、眠り、まずい保存食を食べ、起きたら歩く。こんなことを5日も繰り返していると、「いかにも」という岩山が姿を現した。その山からは雪が渦を巻いて空に巻き上がり、麓に空いた洞窟からは吹雪の中にあってひときわ強い冷気を発している。
吹雪に逆らい冷気の強い方へ強い方へ洞窟の中を進んでいくと、開けた空間に出た。アーランドの広場ほどの広さの空間から天井の大きく空いた穴へと雪が舞い上がっている。その中心には、少女のような風貌をした青く輝くエレメンタルが鎮座していた。
8:名無しNIPPER[sage]
2017/06/11(日) 14:15:35.96 ID:6ZN736J50
背嚢を後ろに投げ捨て、無言で槍を構える。エレメンタルは応えるように閉じていた瞼を開き、ごう、と吹雪を吐き出した。冷気に痺れる私を余所に、エレメンタルは空中に私の槍の倍はあろう氷の槍を作り出した。
次の瞬間、矢のような速さでその槍が打ち出される。なんとか躱すと、槍は壁に深々と突き刺さった。4、5、6本。最小限の動作で躱すと、エレメンタルの周囲の槍は尽きる。すぐさま攻勢に転じようと距離を詰めると、また吹雪を吐き出した。
早目に終わらせるべきね。
9:名無しNIPPER[sage]
2017/06/11(日) 14:16:13.98 ID:6ZN736J50
くらくらする意識が覚醒すると、まず倒れ伏すエレメンタルが視界に入った。依頼を達成したのだ。しかし強い痛みを感じ自分の身体を確認すると、右胸にはぽっかりと大きな穴が空いていた。ごぼっ、と気管から血が逆流する。致命傷だな、他人事のように胸に空いた傷口を眺めていた。
死ぬのか。[ピーーー]るのか。お母様と同じ場所にいけるといいな。でも、その場所にはトトリはいない。
10:名無しNIPPER[sage]
2017/06/11(日) 14:17:08.10 ID:6ZN736J50
意識が遠のき目を閉じてしまおうとしたその時、後ろからほんのりと光が射す。背嚢を投げ捨てた方角だ。そちらを見ると、小さな瓶のようなものが浮かんでいた。瓶の中は緑色の液体で満たされており、ひときわ強い光を放つとその液体は瓶から飛び出しあたり一面に広がった。たちまち痛みは引いていき、胸の穴もみるみる塞がっていく。私は傷口が治る様子をぼーっと眺めがら、トトリの作った薬の中には持ち主が傷を負うと、自動的にその傷を治すものがあったこと。どんな怪我も一瞬で治してしまう薬があったことを思い出していた。
「くくっ、あはははっ」
自然と笑いがこみ上げる。トトリは私に危機が迫った時のために、私がいつも使っている背嚢に薬を忍ばせてくれていたのだ。自分の作ったアイテムを使えない状況でも私を助けられるように。もしもトトリの力は借りない、と子供みたいに馬鹿な意地を張ってしまった時のために、こっそりと。
11:名無しNIPPER[sage]
2017/06/11(日) 14:17:36.15 ID:6ZN736J50
洞窟を出ると空を覆っていた雲はすっかり晴れ、透き通るような青空が広がっていた。この空はアールズにも繋がっている。トトリも同じようにこの空を見ているといいな。
無性にトトリに会いたくなった。会ってありがとうと伝えたい。できるかどうかは自信が無いけれど、抱きしめて私の気持ちを伝えたい。
私と出会ってくれてありがとうと伝えたい。
12:名無しNIPPER[sage]
2017/06/11(日) 14:19:27.75 ID:6ZN736J50
おしまいです。
pixivにも投稿しているので、ブックマークして頂ければ幸いです。
ttps://www.pixiv.net/novel/show.php?id=8274524
13:名無しNIPPER[sage]
2017/06/11(日) 14:29:29.17 ID:nr0xwgEJo
おつ
トトミミ好き
14:名無しNIPPER[sage]
2017/06/12(月) 05:42:57.62 ID:HgOo4VpLo
乙
アーランド三部作で一番好きなカプだわ
15:名無しNIPPER[sage]
2017/06/13(火) 19:10:07.92 ID:6bBFFjh0O
トトミミSSで初めて読んだけどなるほど良いな…
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