449: ◆X5vKxFyzyo[saga]
2017/09/25(月) 21:05:09.57 ID:4fkctst+O
車内で身を伏せていた美嘉たちがおそるおそる頭をあげ、旅客機が墜落した地点を見ようと首を伸ばす。運転手は車から出ないように三人に注意すると、次の瞬間に車体に雹のような小さな物体が降り注いだ。墜落と爆発の衝撃で空中に高く舞い上げられた旅客機の破片やビルの瓦礫が立ち往生している車列の襲いかかってきたのだ。
降り注ぐ破片は車のボディに食い込み、フロントガラスを割り、ミラーを破壊する。運転手は声を張り上げ、美嘉たちに伏せるように叫ぶ。そのとき、瓦礫のひとつが弾丸のようにフロントガラスを突き破り、車内に飛び込んでくる。瓦礫が直撃した運転手の頭から血がだらだらと流れる。
450: ◆X5vKxFyzyo[saga]
2017/09/25(月) 21:06:28.69 ID:4fkctst+O
ーー午後三時三分。
衝撃音に撮影が中断される。カメラマンは機材を持ったまま外に飛び出し、オフィス街にオープンしたばかりのカフェでレポートを行うかな子、智絵理、きらりの三人をその場に残していく。
451: ◆X5vKxFyzyo[saga]
2017/09/25(月) 21:08:18.43 ID:4fkctst+O
カメラマンが機材を真正面に向ける。そこには腕を怪我した女性が血を流しながら、いまにも倒れそうな様子でひょこひょこと歩いている姿が映った。近くには女性と同じ年齢くらいの男性が倒れていた。男性の頭の位置はふつうある場所にから右側にずれていて、肩の上にあった。カメラマンは男性が死亡していることを悟った。その直後、彼女の背後から粉塵の津波がごぉーっという音を立てながら迫ってきた。
肩に担いだ機材を手にぶら下げ、カメラマンは怪我をした女性のもとまで走った。片手にカメラ、もう片方に女性を抱え、カメラマンはカフェまで走る。粉塵がほとんど水と同じように二人のあとを追いかけてくる。
452: ◆X5vKxFyzyo[saga]
2017/09/25(月) 21:09:39.33 ID:4fkctst+O
右上腕のあたりがばっくりと切れ、傷口から下がいまも流れる血で真っ赤に染まっている。右腕だけ赤い死人のような白い女というのが、この怪我をした女性を見た誰もが抱く印象だった。
女性は同じ姿勢のまままったく動かなかったので、もしかしたら死んでいるのでは、と店内にいる者は思った。
453: ◆X5vKxFyzyo[saga]
2017/09/25(月) 21:10:23.73 ID:4fkctst+O
『旅客機です、旅客機が墜落したようです』
中野「……」
454: ◆X5vKxFyzyo[saga]
2017/09/25(月) 21:12:01.68 ID:4fkctst+O
《それからはじめに私は見た、天頂から落ちる星のように垂直にくだってくる、つばめのように、あるいはあまつばめのように素早く/そして私の足の?骨のところに降り、そこから入りこんだ/しかし私の左足からは黒雲がはねかえってヨーロッパを覆ったのだ》
目を覚ました瞬間、美波の脳裡にブレイクの預言詞『ミルトン』の一節が浮かんだ。それは美波が見た夢の内容そのものだった。輝く落下物が描く垂直線と盛り上がり弾ける地面、それ続く空を覆う黒雲の面。
455: ◆X5vKxFyzyo[saga]
2017/09/25(月) 21:14:03.89 ID:4fkctst+O
美波は衝撃を受けつつも、まだニュースが伝える事態に距離を置くことが可能だった。地震があったのかと思ったが、壊れたビルは東京のオフィス街にあり、被害もこのビル一棟だけだったので、地震ではないと自ずと理解できた。
美波はいったいどんなことがあったのだろうと、一層身を乗り出し、何を見ても冷静な態度でいられるというようにテレビに顔を近づけた。
456: ◆X5vKxFyzyo[saga]
2017/09/25(月) 21:15:29.37 ID:4fkctst+O
永井圭は畳の上に足を伸ばして佐藤のテロの実行をテレビで見ていた。テレビの音量は山中のおばあちゃんが使っているときよりも小さくしていたので、外で騒いでいる蝉の声に負けそうだった。
永井はリモコンを手に取り、音量をあげた。
457: ◆X5vKxFyzyo[saga]
2017/09/25(月) 21:16:52.71 ID:4fkctst+O
墜落地点に出来たクレーターの周囲に、破片と瓦礫が積み重なっていた。
それらの破片の山は旅客機のボディである金属、電子部品のパーツ、コード類、プラスチック、座席シートのクッション、鉄筋コンクリート、燃え尽きた紙片など様々な素材から成っていたが、共通点としてどれもある一定の大きさ以上のものは存在しなかった。いちばん大きなものでも二〇センチに満たず、七百体以上にものぼる遺体も同様の有り様だった。医学報告書にはこれらの遺体の状況が「断片化著しい」と記載され、身元確認もままならなかった。
458: ◆X5vKxFyzyo[saga]
2017/09/25(月) 21:18:03.90 ID:4fkctst+O
《And I heard a voice in the midst of the four beasts
And I looked and behold, a pale horse
And his name that sat on him was Death
And Hell followed with him.
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