57: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/17(水) 17:27:35.35 ID:aGyuAlWz0
領主の言葉に、少年は病に倒れる妹の姿を想像した。
そして、少年は自身の浅はかさを恥じた。反目する前に、その言葉の意味を熟慮するべきであったと。
領主は、口をつぐんだ少年を気にも留めず、落ちていた松明に火を灯した。
58: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/17(水) 17:28:04.09 ID:aGyuAlWz0
少年が無言で肩を貸すと、領主は一言「すまない」と呟いた。
戦火は広場から先には及んでいなかったようで、道端の家々に荒らされた様子はない。
だが、その平穏も僅かな間しか続かなかった。
59: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/17(水) 17:28:34.03 ID:aGyuAlWz0
領主が、一体の魔物の亡骸に松明を近づける。
狼の頭をもちながら、二本の後ろ足だけで歩いていた魔物だ。
その大きな目を極限にまで見開き、口からは泡をあふれさせ、尋常ならざる形相で息絶えている。
60: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/17(水) 17:29:01.70 ID:aGyuAlWz0
そんな少年をしり目に、領主はくつくつと笑い始めた。
魔物たちの作り上げた地獄を眺め愉快に笑うその姿は、おとぎ話で知る邪悪な魔王そのものであった。
「いったい、何を為されたのですか」
61: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/17(水) 17:29:28.77 ID:aGyuAlWz0
少年の脳裏に、昨夜の豪勢な晩餐がよぎる。
人々に食べ尽くしようがない大量の料理。
その残された皿の処遇に、わずかながらの罪悪感を抱いたが。
領主が、それを無駄にすることは無かったのだ。
62: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/17(水) 17:30:03.69 ID:aGyuAlWz0
「妹を探してきます」
館のあまりの惨状に、少年の不安が搔き立てられる。
館には、少年の妹が預けられていたはずだ。
63: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/17(水) 17:30:33.93 ID:aGyuAlWz0
「一先ず―――金が要る。死体の懐を漁ってこい」
領主のあまりに人道に反した言葉に、少年は戸惑いを見せた。
それは、少年の知る「正しい生き様」からかけ離れた行いだ。
64: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/17(水) 17:31:04.20 ID:aGyuAlWz0
少年が正門にたどり着くころには、東の空が薄明るくなってきていた。
影の塊にしか見えなかった数多の遺体が、その姿を明らかにされる。
人、人、人、人、大勢の戦士達。そして、僅かながらの魔物。
65: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/17(水) 17:31:33.83 ID:aGyuAlWz0
少年は、巨人の隣にうつ伏せに倒れている男を見つけた。
どこか、見覚えのある背中であった。
少年は、意を決して男の体をひっくり返す。
66: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/17(水) 17:32:03.99 ID:aGyuAlWz0
「まずは、領主さまの指示に従おう…」
少年は、自分自身に言い聞かせ深く息を吐いた。
67: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/04/17(水) 17:32:33.26 ID:aGyuAlWz0
銅貨を前に、少年の手が止まる。少年の良心が止めさせたのだ。
これまで、多少の間違いはあれど少年は正しいと信じる道を生きてきた。
人として、踏み越えてはならぬ境を超えたことはなかったはずだ。
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