138: ◆vVnRDWXUNzh3[sage saga]
2023/01/27(金) 00:17:53.75 ID:sMuggt4e0
かく言う私自身はといえば、無論提督さんのことを憎からずは思っている。とはいえそれは龍驤さんや比叡さんのような恋慕ではないし、妙高さんが抱いている世話焼き的な母性(……或いは野次馬根性)とも違う。
榛名さんや大鳳ちゃんがよく口にするその力量に対しての「敬意」と、“かわうち”の悪友的な「友情」、その中間というのが多分一番近いかな。
では二人と比較して、私のこの戦いに対する覚悟や決意は弱いのか?…………そう問いかけられれば、胸を張り、声を大にして言える。
139: ◆vVnRDWXUNzh3[sage saga]
2023/01/27(金) 00:20:18.88 ID:sMuggt4e0
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140: ◆vVnRDWXUNzh3[sage saga]
2023/01/27(金) 00:29:11.45 ID:sMuggt4e0
この鎮守府に留まらず、【海上機動迎撃網】全体へと行われた一大攻勢。経路・艦隊規模・戦況推移、何れも横須賀司令府が事前に立てていた予測内容とほぼ完全に一致する。
当然、とまでは言えないが十分に納得はできる結果だ。何せ八頭や海自屈指の秀才(かつ危険人物)と名高い例の一等海尉を筆頭に、三自衛隊と在日米軍、各司令府所属の提督達が各々の知略をフル回転させ総力を挙げて解析と議論、改訂を重ねているのだから。
仮に“全て”予測通りであったなら、少なくとも日本列島戦線に関しては持ち堪えるどころか十分な余力を以て反転攻勢さえ可能としただろう。
141: ◆vVnRDWXUNzh3[sage saga]
2023/01/27(金) 00:34:29.08 ID:sMuggt4e0
「あ、あの………小栗提督代理、大丈夫ですか?」
「ん………あぁ」
凄まじい勢いで戦況報告と艦娘や館内人員、妖精たちへの指示が飛び交う中で漏れ聞こえてくる暗く陰鬱な“噂話”。否が応でも耳に入ってきてしまうそれらに思わず眼鏡をずらし眉間を抑えていると、手元にスッと湯気を立てたお茶が差し出される。
142: ◆vVnRDWXUNzh3[sage saga]
2023/01/27(金) 00:37:43.75 ID:sMuggt4e0
突拍子もない申し出ではあったが、その御蔭で落ち着けたこともまた事実。そして辺りを見る余裕が出てくれば、司令室全体が不安と疲労に擦り潰されそうな有様となっていることが直ぐに感じられた。
休養はとても取らせられる状況ではないにしろ、“一息”ぐらいは入れさせなければそれもまたどこかで致命的な決壊を招くだろう。
「いえ、やはり流石にここの指揮は私の職務ですので、戦況が安定するまでは離れられません。
143: ◆vVnRDWXUNzh3[sage saga]
2023/01/27(金) 00:50:25.51 ID:sMuggt4e0
2011年8月14日の【ハワイ奇襲】以降、翌年初頭の【艦娘実装】が成るまで人類は世界規模で制海権・制空権を喪失しつつあった。そんな中にあって何故各国が辛うじて致命傷を避け得ていたかと言えば、深海棲艦側の動きがとりわけ最初期は非常に“直情的”だったからに尽きる。
そこに人類がいれば優先順位も何もなくとにかく近場から手当たり次第に殺していき、行軍は前進か後退かのほぼ二択。“ヒト型”が出現してからは戦術規模であれば多少理知的な動きを見せることもあったが、それも広い範囲で見れば基本的に“行き当たりばったり”の域を出ない。
海上ではそれでも圧倒的な力量差ゆえまともに抗うことはできなかったが、特にヨーロッパで【陸上に上げて物量で殴る】という脳筋戦術が多大な戦果を挙げられたのは深海棲艦側に“橋頭堡の構築”の概念がなく孤立させることそれ自体は極めて容易だったからだ。
144: ◆vVnRDWXUNzh3[saga]
2023/01/27(金) 01:45:17.90 ID:sMuggt4e0
不幸中の、という注釈は間違いなく必要になるが、それでも“幸い”が一つある。
【海上機動迎撃網】自体は、まだ機能を維持できている点だ。
(我々は、【学園艦棲姫】の存在を起点に最も強く警戒していた筈の“物量”について予想を覆され、主力部隊をフィリピン海に引き摺り出された。
145:名無しNIPPER[sage saga]
2023/01/27(金) 11:22:45.20 ID:2YQXihCe0
更新おつです
まさかの青ヶ島サイドですね
どこにも後方などなく全てが前線という状況がもう…
146: ◆vVnRDWXUNzh3[saga]
2023/02/01(水) 23:04:06.10 ID:qlo4HhBq0
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147: ◆vVnRDWXUNzh3[sage saga]
2023/02/01(水) 23:09:53.70 ID:qlo4HhBq0
ただ、自衛官として経験を積み、深海棲艦と長らく戦っていく内に、自分の中で“あの時”の上層部の判断を一概には否定できなくなったのも確かだ。
艦娘の“実装”が未だ行われていなかった当時、事実を直視するなら自衛隊は人民解放軍に対して劣勢だった。
陸軍の単純兵力はトリプルスコア、北朝鮮軍のように兵装性能においてこちらが圧倒的な大差をつけているわけでもない。
空母戦力は既に六個の【防空機動艦隊】を運用していた日本側に数字上だけなら分があるものの、日中間の距離は近現代戦闘機ならものの数十分〜数時間で0にできる。在日米軍を考慮に入れても保有戦闘機それ自体の物量差を埋めるほどのアドバンテージとは到底言えなかった。
148: ◆vVnRDWXUNzh3[sage saga]
2023/02/01(水) 23:14:52.38 ID:qlo4HhBq0
ASEAN、オーストラリア、そして中国。列強の海空軍を尽く捻じ伏せ薙ぎ払い、欧州やアフリカでは既に沿岸部への浸透を始めていた、弱点どころか正体すら禄に解明されていない得体のしれない化け物の大軍団との戦いを控えていた“あの時”と立場としては同じだ。
確かに、戦力自体は今回の方が恵まれてはいる。艦娘がおり、基地航空隊があり、しっかり最新式の対空砲や装甲車、ミサイルが数こそ少ないが用意され、戦闘員の人数もこの事変が起こる直前に幾度かの増強が間に合い一先ず1500に迫る程度には確保されている。
だが、向かってくる深海棲艦の数は6年前の数倍にもなり、その旗艦は今までに前例がないほど凶悪かつ強力な存在で、ここにいる艦娘たちより遥かに練度が高い艦隊でもまるで歯が立たなかった存在だ。しかも今この瞬間に攻勢をかけてきている分に関しても、その物量の底は不明でそもそも【学園艦棲姫】以前にこれらさえ凌ぎきれるかどうかは解らない。
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