1:名無しNIPPER[sage saga]
2022/02/08(火) 22:36:57.10 ID:gAjlLna3O
私には現在、彼女が存在している。恋人だ。
しかし果たして彼女のことを『恋人』と定義していいものか、正直判断に迷うところだ。
何故ならば私たちは同性同士であり、すなわち『私』は生物学上紛れもなく『女』だからである。そして私は至ってノーマルだった。
それなのに、どうしてこうなった。何故か。
話せば長くなるのだが彼女と私は所謂幼馴染関係であり、小さい頃から行動を共にした。
知り合ったのは幼稚園だったような気もするが、定かではない程、昔っから一緒だった。
小学校高学年になるとクラスメイトの女子たちはやれ同じクラスの男子がかっこいいだのやれ他のクラスの男子がかっこいいだのと色めき立ち始めたのだが私たちは特にそういった浮ついたこともなく中学校へと進学した。
同学年の男子にときめいた経験がなかった。
ともあれそんな灰色の学校生活を送っていた私たちだったのだが、高校への進学と同時に転機が訪れた。前触れもなく、ある日突然。
「ねえ、私と付き合ってよ」
唐突なその愛の告白に対して私はまるでラノベの主人公のように「え? どこに?」などとお約束を返して、彼女に盛大に呆れられた。
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2:名無しNIPPER[sage saga]
2022/02/08(火) 22:38:50.56 ID:gAjlLna3O
「鈍感な幼馴染を持つとほんと苦労するよ」
やれやれと言わんばかりに嘆息しつつ、先程のお誘いが告白であったことを説明してくれた幼馴染はその日から、私の彼女になった。
「てっきり断られるかと思った」
3:名無しNIPPER[sage saga]
2022/02/08(火) 22:39:53.60 ID:gAjlLna3O
「来たよ」
「はいよ、いらっしゃい」
さて、待ちに待ったシルバーウィーク当日。
お泊まり道具一式を持った私は彼女の自宅に突撃した。玄関のドアを開けた彼女は当然ながら初めて目撃する部屋着姿であり、常日頃、家ではもっぱらジャージで過ごしている私はバッグに詰めた愛用のジャージをその場で捨てようかと思った。捨てないけどさ。
4:名無しNIPPER[sage saga]
2022/02/08(火) 22:40:53.80 ID:gAjlLna3O
「なんで正座してんの?」
よっと、足でドアを開けて再び現れた彼女は片手に飲み物と、もう片方の手に香ばしい香りがするクッキーと思しき皿を持っていた。
「はい、どうぞ」
5:名無しNIPPER[sage saga]
2022/02/08(火) 22:42:16.35 ID:gAjlLna3O
「ねえ、隣に行ってもいい?」
「え? あ、ああ。うん……いいよ」
彼女は付き合う前からこんな風に不意打ちが得意だ。人の不意を突くのが好きなのだ。
こういうあざとさが実にタチが悪い部分だ。
6:名無しNIPPER[sage saga]
2022/02/08(火) 22:43:26.58 ID:gAjlLna3O
「本当に鈍感な幼馴染を持つと苦労する」
またお決まりな台詞を口にする彼女に私は抗議の眼差しを送る。突き放したようなことを言う癖に、彼女は意外と面倒見が良いのだ。
「普通は今日泊まっていくって言われたらちょっと戸惑いながらも何かを期待しながら照れ混じりに頷くのが定番でしょ」
7:名無しNIPPER[sage saga]
2022/02/08(火) 22:45:36.71 ID:gAjlLna3O
「ほら、いい加減機嫌直して」
「お前は父親の帰宅時間をわかっていた!」
気まずそうに部屋から出て行った父親の帰宅時間を一緒に暮らす娘が知らない筈はない。
何もかも仕組まれていたのだ。お泊まりおうちデートという淫靡な響きにまんまと誘き出された私のくたくたパンツの運命はこの性悪で底意地の悪い女により定められていたのだ。
8:名無しNIPPER[sage saga]
2022/02/08(火) 22:46:32.07 ID:gAjlLna3O
「さっきは本当に申し訳なかった」
「まったく、お父さんには困ったものだよ」
夕食の際に改めて彼女に父親を紹介されて、お父さんは深々と頭を下げて謝罪した。
彼女はというと、予め作っておいたらしいカレーを温め直してかき混ぜながら説教した。
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