43: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:30:28.37 ID:86/EQe0g0
「悪い予感が当たってしまったみたいですね〜」
「どういう意……」
私の問いかけが終わる前に、店の奥から先ほどとは別の女性が出てきた。
「……本日はどのようなご用件で?」
かなり強い口調だ。少なくとも歓迎されているとは思えない。
44: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:31:13.60 ID:86/EQe0g0
「ま、またのお越しを」
「え?」
「おじゃまいたしました〜」
「え?」
そそくさと退散するように店を出るその瞬間、店員さん同士の声が私の耳にも入ってきた。
45: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:32:02.45 ID:86/EQe0g0
「なんか、ごめん。朋花」
店を出て、私は朋花に手を合わせる。
「凛さんのせいではありませんよ〜。それに色眼鏡で見られることには、私は慣れていますからね〜」
そう、不勉強な私は知らなかったが、やはり朋花は知る人ぞ知るというか、知る人は知っている存在なのだ。
46: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:32:46.37 ID:86/EQe0g0
思い返せば、私は朋花が何者かを知らなかっただけに、ごく普通の……お母さんに言わせればやや無愛想な対応を朋花にしていた。
朋花にとってはそれが、居心地が良かったのかも知れない。
しかしどこに行っても同じとは限らない。
私は花屋になるかも知れない。
47: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:33:32.39 ID:86/EQe0g0
「別に花屋になりたくないとか、そういうわけじゃない」
ガーデンテラスのあるカフェに入ると、私は朋花に想いをぶつけた。
幸い他に誰もお客さんはいない。
「花は好きだし、店の手伝いも嫌じゃない。でも、私ってそれだけなのかな」
48: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:34:17.42 ID:86/EQe0g0
「今以上に子豚ちゃんたちが増えた時、私の声が届かない子豚ちゃんがもしいたら……私の姿を見ることができない子豚ちゃんができてしまったら……」
「朋花は今以上に、子豚ちゃんを増やしたいんだ」
「もちろんですよ〜。最終的にはすべての人を、子豚ちゃんにしたいと考えていますから〜」
「ふふっ。壮大だね」
彼女の言う『すべての人』の中に、私はいるんだろうか?
49: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:34:54.70 ID:86/EQe0g0
「私は聖母になればいい、って後押ししてくださったのは凛さんですよ〜?」
確かに言った。
朋花は聖母になるんだよ、それでいいと私は言った。
え? じゃあ朋花は、私がそう言ったから決意したの?
決意できたの?
50: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:36:18.34 ID:86/EQe0g0
「そうなんです。その道では有名なその方は、私の顔を見るなり『この子は傾城いや、傾国の相がある』……と」
相変わらず、朋花の話は難しい言葉が多い。
やはり古い……んだと思う家柄のせいだろうか。
「傾城というのは、文字通り城が傾く……つまり、私の為に城が傾くことになるという意味ですね〜」
「お城が傾く……ってそれは、重さで?」
51: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:37:18.17 ID:86/EQe0g0
「城が傾くのは、私が美人だからですよ〜? 私を巡って沢山の人が争い、奪い合い、そして身を滅ぼしていくからです〜……」
そのせっかくの笑い声が、話していくうちに沈痛なものに変わっていく。
「美しく、珍しい花があった時、人はそれを自分のものにしようとするんですよ〜ましてその花が、世界にひとつだけ……その人しかいないのだとしたら……」
「その人を巡って争いがおこる……城が傾く、ってわけか。じゃあ傾国っていうのはつまり、朋花をめぐって国が傾いちゃう事態になるって意味なんだ……」
「無論、傾城や傾国というのはひとつの言葉です。ですが実際に、私を巡って争いがあったことは事実なんですよ〜」
52: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:38:14.49 ID:86/EQe0g0
「今さ、花のこと色々とお父さんに教わってるんだよね」
「……はい〜?」
「ポインセチアってあれ正確には花じゃないんだよ。花に見える部分って苞って言って葉っぱが変化したものなんだって」
「……知ってますよ〜」
「あと、リザンテラって花は地下で咲くんだって」
53: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:38:54.71 ID:86/EQe0g0
結局私は、彼女を泣かせてしまっている。
当たり前のことだけど、朋花は私の意図なんかお見通しだった。
そう。私の、朋花にしゃべらせたくないという気持ちをわかっていてくれ、感謝の涙を流しているのだ。
「……うん」
私も朋花を抱きしめた。
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