20: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:09:49.61 ID:86/EQe0g0
ニコニコとして……いや、ここまでほとんどいつも彼女はニコニコとしているのだが、そう言う彼女に私は昨日両親から聞いた情報をぶつけてみる。
「あ、そうそう、花っていえば朋花の家って華道の家元をやってるの?」
ビシッ。
音に聞こえるように、その場の空気が変わった。
相変わらず朋花は笑顔のままだ。だが、その場の空気が、重く冷たく凍るように変質している。
21: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:10:40.50 ID:86/EQe0g0
「その……昨日、朋花が四種いけって不満そうにつぶやいてたから」
「え?」
「お父さんに、四種いけってなにって聞いたら華道の言葉で、しかもそれを避けるのは華道でも家元みたいな人かその縁者だって聞いたから……それで……」
空気が少し和らいだ。
「なんか……ごめん」
22: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:11:45.78 ID:86/EQe0g0
再会を約束してわかれたのは事実だが、まさかその日の夕方に彼女がまた店にやって来るとは私も思っていなかった。
私服であるところを見ると、いったん帰宅してから来てくれたのだろう。
店番をしていた私に、昨日と同じように朋花は会釈をした。
「口げんかをしに来ましたよ〜」
23: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:13:06.44 ID:86/EQe0g0
「なんでわかったの!?」
「だからあの花束を作れたんだと、思いますよ〜」
朋花はおかしそうに言うが、そういうものだろうか。
でも確かに、昨日は無心になって花束を作れたし、あれは自分でも満足のいく出来映えだった。
「あの花束、あれからどうしたの?」
24: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:14:09.92 ID:86/EQe0g0
よくはわからないが朋花は相変わらずニコニコと笑っている。
私は意を決して聞いてみた。
「生け花って楽しい?」
「どうでしょうか……ただ、昨日も言った佐々木道誉はこんな言葉を残しています」
佐々木道誉……誰だっけ。
25: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:15:19.36 ID:86/EQe0g0
そう、彼女は言った。私が昨日のあの濃青のラナンキュラスが好きだからあの花束が作れた。それなら朋花は、どんな花でどんな花束を作るのだろうか。
「私、朋花がどんな花束を作るのか見たいな」
「はい〜?」
「ね、作ってみてよ。もちろん使った花のお金は、私が出すから」
最初は驚いた顔をした朋花だったが、すぐまたいつもの笑顔に戻って言った。
26: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:16:15.93 ID:86/EQe0g0
大ぶりのアジサイをベースにプロテアやトルコキキョウ、そしてビバーナムという構成だ。
朋花の好みだという淡いブルーが活きていて、はなやかだけど気品を感じる。
ただそれよりも私が強く思ったのは……
「さよなら、私の今月来月のおこずかい……」
「言い出したのは、凛さんですよ〜? それに〜」
27: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:17:10.91 ID:86/EQe0g0
「凛……これ、あなたが作った花束じゃないわよね」
配達から帰ってきたお母さんは、花束を目にするなりそう言った。
「うん。それは友達が……あ、ちゃ、ちゃんとお金は私が払うから」
「……それ、昨日言ってた娘? 友達になったの?」
28: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:17:49.36 ID:86/EQe0g0
「ずいぶんと、仲良くなったのね」
肩をすくめて苦笑しながらお母さんが言う。
「え? なんで?」
「これ生け花なら、四種いけでしょ? あなたの流儀にその娘が主義を曲げて作ってくれたのよ。いいお友達ね」
「あ……そうか」
29: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:18:31.99 ID:86/EQe0g0
校内で彼女、天空橋朋花を見つけるのはさほど難しいことではない。
人が集まっている場所を探し、その真ん中を見に行けばいいからだ。
たまに朋花ではない場合もあるが、それでも次の集団を探せばだいたい朋花がいる。
だが、見つけるのが容易いということと、彼女に話しかけられるかと言うことはまた別だ。
30: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:19:10.51 ID:86/EQe0g0
「そう言えばさ」
そうした私の心情を酌んでか、彼女も同じ気持ちなのか、朋花も週に1度ぐらいはうちの店に寄ってくれる。
「朋花は私のこと、知ってたんだよね。前から」
「孫子曰く」
「え?」
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