53:名無しNIPPER
2021/06/24(木) 15:40:50.87 ID:I9OmqLYR0
「告白は?」
「してねぇよ」
「する予定は」
「ねぇよ」
「もたもたしてると知らん奴に取られるぞ」
54:名無しNIPPER
2021/06/24(木) 15:41:24.25 ID:I9OmqLYR0
正直な話をすると告白を考えてみたことが無い訳では無かった。
彼女と今より進んだ関係になれれば俺の人生はもっと幸せになれると思う。
一日が楽しすぎてきっと二十四時間が数秒程度にも考えられると思う。
でも、だからこそ、この関係を壊してしまうのが何より怖かった。
55:名無しNIPPER
2021/06/24(木) 15:42:28.76 ID:I9OmqLYR0
「もし告白して振られた時の事を考えてるなら、それはお門違いだぞ」
藤井はそう言って言葉を続ける。
「前にも言ったけどな、ユッコってめちゃくちゃライバル多いんだぞ、容姿に限って言えばミス一位なんて余裕なレベルだしな」
「だから外面しか見てないカス共に告られる可能もゼロじゃない、想像してみろよ。
56:名無しNIPPER
2021/06/24(木) 15:43:18.59 ID:I9OmqLYR0
でも確かにそうだ。もし彼女が他の俺の知らない有象無象共とくっついたら?
考えてるだけで嫌な気分になる。それにそうだ。ユッコは多分俺が告白したぐらいじゃ俺の事は嫌いにはならないで居てくれるだろう。
それはこの数カ月の俺らの親交が何よりも深く示してくれている。
「まぁ、お前にしては参考になったわ、さんきゅ」
57:名無しNIPPER
2021/06/24(木) 15:44:08.45 ID:I9OmqLYR0
それから俺は帰路とは逆方向に学校へ、彼女のもとへ向かって全力で走った。
クラスメイトに見られたらアイツは変な奴だと思われるだろう、でもそんな事は関係なかった。
ただ彼女に会いたい。告白して振られたって良い。
とにかく俺は彼女にどうしようもなく好きなんだと、お前が好きなんだと伝えたかった。
汗ばむ制服も見下ろす太陽も、その全てがその瞬間だけは俺のためのエキストラだと思えた。
58:名無しNIPPER
2021/06/24(木) 15:44:46.45 ID:I9OmqLYR0
「あれ?イツキさんどうしたんですか慌てて」
入ってきた俺に気づいたのか、彼女は小走りでこちらに近寄る。
「凄い汗ですけど大丈夫ですか?」
「あぁ……それは大丈夫……それよりユッコに言いたいことがあるんだ」
59:名無しNIPPER
2021/06/24(木) 15:45:35.87 ID:I9OmqLYR0
「どっちが先に言いましょうか」
「じゃあジャンケンとかってのは?」
その方法を提案したのは俺だった。もっとも順番なんてどうでも良かったけれど。
「いいですね、じゃあ勝った方が先に言うってことにしましょうか」
60:名無しNIPPER
2021/06/24(木) 15:46:40.79 ID:I9OmqLYR0
「……」
俺は拳を丸めたその形グーを出した。彼女はその小さな手のひらを広げたパー。
じゃんけんは彼女の勝ちだった。
「あっちゃー負けたか」
61:名無しNIPPER
2021/06/24(木) 15:47:52.44 ID:I9OmqLYR0
俺があの頃の事を思い出すとき、記憶の中でそれはいつも映画のような物として再生される。
俺は映画館に居る。両手には何も持っていない。ポップコーンもドリンクもチュロスも何も。
当然だけど周りには誰も居ない、俺の隣の席にも、この映画館にも。
ただポツンと一人でその大きなモニターの前に立っている。
62:名無しNIPPER
2021/06/24(木) 15:48:49.32 ID:I9OmqLYR0
もし俺の人生の監督を務めた神様とか言う奴が本当にいるなら
そいつはバットエンドが好きな性格の悪い奴なのだと思う。
そいつは「好きな映画は? 」と聞かれたらミストだとか、バタフライエフェクトだとかって答えるだろう。
だから神様が俺の人生の監督なら、それは最初からバットエンドのオチの付いた映画なのだ。
63:名無しNIPPER
2021/06/24(木) 15:50:14.53 ID:I9OmqLYR0
「実は私アイドルになったんです!」
彼女はそう言って、陽だまりに溶けるような、見るもの全てを楽しくさせるような、そんな笑顔を浮かべた。
一秒。理解できない、二秒。理解できない、三秒。理解したくない。
体の全身がそれを拒んでいる。
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