10:名無しNIPPER[saga]
2021/05/16(日) 20:13:28.82 ID:emsexCaj0
その日の学園内は、少し騒ぎになった。
朝早くから、不安になるようなサイレンを鳴らしながら救急車が敷地内に入り、
朝練をしていたウマ娘たちも何事かと様子を見に行っていた。
教師がウマ娘たちを宥め、元に戻るよう告げた。
しばらく途絶えていたサイレンの音が再開し、敷地内を出て、遠ざかっていく。
11:名無しNIPPER[saga]
2021/05/16(日) 20:16:27.46 ID:emsexCaj0
手に温もりを感じていた。
トレーナーが目を開けようとすると、すぐにその温もりは離れていった。
外界から声が届いてくる。やっとの思いで、それに返事をしながら、目を開けると、
目の前に、こちらを覗き込むタキオンの顔があった。
12:名無しNIPPER[saga]
2021/05/16(日) 20:18:15.71 ID:emsexCaj0
トレーナーの症状は深刻だった。
意識は取り戻したものの、いつ容態が急変してもおかしくない。
今も意識を失ったり、また取り戻したりを繰り返している。
薬を投与し続けて、やっとのことで症状を緩和できている状態だ。
13:名無しNIPPER[saga]
2021/05/16(日) 20:20:15.18 ID:emsexCaj0
ある日、トレーナーが自分を呼んでいると聞いた。
だから、身だしなみを整えて、病院に向かった。
数週間しか空いてないはずなのに、トレーナーは前よりもやつれているように見えた。
14:名無しNIPPER[saga]
2021/05/16(日) 20:22:02.12 ID:emsexCaj0
トレーナーは少し黙った。
そして、しょうがないと溜息を吐いて、紙とペンを机の上に取り出し、
咳をしながら、ぐりぐりと文字を書いて、タキオンに差し出した。
とりあえずはこのメニューの通りにトレーニングをこなしてほしいと言った。
15:名無しNIPPER[saga]
2021/05/16(日) 20:23:10.76 ID:emsexCaj0
一人で調べることに限界を感じたタキオンは、いろいろな伝手に協力を頼んで回った。
理事長をはじめとする学園関係者にも、便宜を図ってもらうために、頭を下げた。
皆、驚いてタキオンのことを見て、少し気の毒そうな表情を浮かべた後、出来る限りの力を貸すことを約束してくれた。
進捗は芳しくなかった。
16:名無しNIPPER[saga]
2021/05/16(日) 20:24:43.51 ID:emsexCaj0
時間ばかりが過ぎていった。
病院から逐一トレーナーの症状の報告を聞くたびに、タキオンの焦りは強くなっていった。
ずっと期待をしては、失望することを繰り返していた。
調査し、誰かに連絡をするたびに、次第に頭の中での理性の声が強まってくる。
17:名無しNIPPER[saga]
2021/05/16(日) 20:26:18.37 ID:emsexCaj0
トレーナーの病状は悪化の一途を辿っていた。
焦りを必死に押し殺して、時間を稼ぐために最新施設が揃った病院に移させることを検討していると、
病院から連絡があり、トレーナーがまたタキオンに会いたいと、呼んでいるとのことだった。
18:名無しNIPPER[saga]
2021/05/16(日) 20:27:22.11 ID:emsexCaj0
出会った頃から、この人の目には狂った色が宿っていた。
このウマ娘を、自分が絶対に速く走らせて見せると、情熱を迸らせていた。
当時、その色に私はひどくそそられた。
でも今のトレーナーの目の色は、弱弱しい。
19:名無しNIPPER[saga]
2021/05/16(日) 20:28:48.76 ID:emsexCaj0
タキオンは、元気になれば、また元のトレーナーに戻るだろうと思った。
だから、すぐに治療方法を探しに行った方が良い。
だが、タキオンの頭の中の理性が、今のトレーナーの姿を見てから、
絶対に間に合わないと、ずっと言っていた。今を逃したら、もう会えなくなると叫んでいた。
20:名無しNIPPER[saga]
2021/05/16(日) 20:29:36.38 ID:emsexCaj0
タキオンは治療の可能性を諦めた。
代わりに、次のレースでは絶対に一着をとろうと思った。
トレーナーが望んでいるのなら、絶対に叶えてあげようと思った。
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