白雪千夜「アリババと四十人の盗賊?」
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82:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:03:48.02 ID:tRJaplXx0
「では案内の前に、目隠しをさせて頂きます」
「目隠し……? もしやましい仕事なら……」
 蒼い眼のムスタファが、取り決めた通り肩越しに返す。
「いいえ、靴屋様。誓って、やましい仕事ではありませんよ」

以下略 AAS



83:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:04:25.10 ID:tRJaplXx0
 演じながら、あるいは人がそうするのを見ながら、考える。モルジアナは今、誰の、何の為に動いているのだろう。

 アリババはまだ主人ではない。カシムの妻だろうか。自分に降りかかる火の粉を振り払う為か。それとも、亡き主人の復讐を果たす為だろうか。守るべきものを守れなかった、奴隷の汚名返上の為に。

 モルジアナにとって、そもそもカシムは想うべき存在であったのか。奴隷が、世情からいえば人格を否定されるような支配を受けていたのではなかったろうにせよ、果たして仕えることに満足を見出せる関係性だったのか。千夜に言わせれば、愚かな主人だ。合言葉、それも胡麻≠フ一言だけを忘れる間抜けな最期は、モルジアナの知るところではなかったとはいえ、彼女を含めて奴隷の一人も連れて行かずに結局自滅したのは頂けない。財宝を運ぶにも人手はあった方が良かっただろうし、結果論ながら呪文も忘れずに済んだ筈だ。それは罪の意識の為、他の者に秘密を共有する必要を嫌ったからであっただろうか。それとも、悪事は一人で背負い込むという男気か。
以下略 AAS



84:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:05:29.23 ID:tRJaplXx0
「千夜さん、もっと前に」

 頼子の指摘に頭を下げて、踏み込む。もっと舞台を利用しなければいけなかった。
「まったく、散々連れ回して……」 
「ご苦労様でした。もう目隠しをお外ししますが、何をご覧になっても、あまり声などあげられませんよう。その場合、こっちには備えがありますよ」
以下略 AAS



85:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:06:29.35 ID:tRJaplXx0
 やがてシーンが終わり、次の稽古の為に小休止を挟むことになった。水分を摂りながら反省を重ねる。多分、これでは駄目だ。暗い気分が、なんとなく雑然とした空間の中で、千夜を一人だけ切り取ったように包む。次はせめて集中しなくてはならない、と思う。
 思い悩むところへ、りあむがやって来た。

「エへへ、あの」
「はい」
以下略 AAS



86:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:07:17.02 ID:tRJaplXx0
「千夜ちゃんは鰤でいったらネムだよね(笑)」
「は?」
「アッごめ」
「いやあ、楽しそうだねぇ」


87:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:07:42.48 ID:tRJaplXx0
 演出家の先生がやってきて、目に朗らかな小皺を寄せた。
「白雪さん、上手くいかない実感あるでしょ?」
 素直に首肯する。
「……はい」
「空間に負けてるんだよ。姿勢は意識して、でも力は抜いて、ね」
以下略 AAS



88:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:08:39.52 ID:tRJaplXx0
 それから、また稽古の舞台に上がった。座った大勢の盗賊≠スちに見守られながら、物語の続きを演じる。
 《千夜ちゃん》だの《千夜》だのと声援があった。結構な年下からちゃん付けに呼び捨てか、とも思ったが、アイドルとしてはこちらが後輩だし、そもそもさして嫌でもない。可愛いモノ扱いが板に付いているんだな、と内心苦笑する。あの愛情表現を惜しまないちとせと暮らしていたのでは、常日頃から彼女のアイドルをやっていたようなものだったのかもしれない。

 ――アイドルか、と思う。ちとせは自分に何を見ているのだろう。珊瑚のような瞳の内奥に、千夜を打った光はどんな像を結ぶのだろう。知りたい。成りたい。一ミリだけでも近付きたい。まだ見ぬ偶像に、珊瑚の奥に。それ以外、想いがない。



89:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:09:29.09 ID:tRJaplXx0
 とりあえずは目の前の稽古。ババ・ムスタファというのがお調子者で、モルジアナの口止めなど意に介さず、街へ一人で潜入した変装姿の盗賊に、奇妙な仕事について明かしてしまう。財宝を盗んだアリババを狙う盗賊は金貨を差し出し、ムスタファに案内を依頼する。彼はカシムの家に行くまで目隠しをしていた事から一旦断るも、もう一度目隠しをされることで、なんと以前歩いた道を思い出し、盗賊をカシムの家まで導いてしまう。

「……いけませんね。ここで右だったか、左だったか……」
「ああもう、これだろッ! 五枚目だぞッ! これで辿り着けなかったら、タダじゃ――」
「思い出した、ここを真っ直ぐです。そして…… そうそう、ここだった!」
以下略 AAS



90:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:10:04.45 ID:tRJaplXx0
「これは、何でしょう。近所の子供のいたずら書きか、それとも……」

「こ、これはッ‼︎」横から覗き込んだアリババが大声を上げた。「なんと禍々しいっ! 二本の角にニタリと剥き出しの歯っ!」



91:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:10:37.42 ID:tRJaplXx0
「そうですか? サインか何かのような……」
 台詞を返しながら、少々気圧される。というより、調子を乱される――その立ち位置、舞台が狭くならないか。

「そしてこの眼帯! いいえ、これは邪悪な精霊の似顔絵! 悪魔降臨の儀式です!」
 ――離れ過ぎ。どこの政治家の演説だ。
以下略 AAS



92:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:11:11.96 ID:tRJaplXx0
「ふむ、儀式とやらはともかく、これは盗賊が付けた目印かもしれない。なんとか誤魔化しておこう」
 千夜なりに立ち位置を考えながら、見せ方を調整する。それを安斎都はしっちゃかめっちゃかに乱す。付いていっては豆鉄砲を食って、の繰り返し。奔放なアリババは千夜を振り回しながら、その苦労など意にも介さず笑った。
「盗賊? あっはっは、そんな筈はありません。そこはモルジアナがしっかり対処してくれたでしょう」
「アリババ様…… いえ、ともかく、綺麗に消している暇があるかどうか。それより、これと同じサインを近所の家々に付けておきましょう」
「待った! この悪魔を増やすですと⁉︎」
以下略 AAS



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