白雪千夜「アリババと四十人の盗賊?」
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28:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/01(火) 23:14:08.68 ID:6NLLeJ5C0
 そんな記憶を、バラバラになった陶器の破片を眺めながら喚び起こしていた。たまには事務所でトルコ風コーヒーを、気分も良いし、折角だから彼にもと、その机からマグカップを奪って来たのが失敗の始まりだった。一条を通じて述べるには千夜の記憶が飛んでしまったが、とにかく給湯室の床、かつては《ME BOSS,YOU NOT》と声高だったそれは、今や手榴弾にでもやられたように無残な最期を晒して散らばっている。

 断末魔の叫びを聞きつけたか、タッタと足音を鳴らし、彼が顔を覗かせた。

「割れたか?」
以下略 AAS



29:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/01(火) 23:14:51.14 ID:6NLLeJ5C0
 彼は悪戯っ子のように笑い、
「だな。怪我ないか?」
「いえ…… すみません。弁償します」
「弁償? そんなのいいんだよ。千夜が怪我してなくてよかった」
「……、それはまた後で、として。すぐ片付けますので」
以下略 AAS



30:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/01(火) 23:15:28.44 ID:6NLLeJ5C0
 振り返ると、双葉杏が口に右手を当てている。千夜より頭ひとつ分低い妖精じみた身体に、着ているというより引っ掛けたような白いシャツは大胆に《ホリデイ》とあった。短いパンツから華奢な生脚がすらっと伸びており、千夜は裸足を連想してどきりとしたが、スリッパを履いていたので深い心配は要らないのだと分かった。一応手の平を向けて《危ないですよ》の意を通わせておく。

 杏は床に、しげしげと視線を注いだまま言う。
「プロデューサーの? 見事にバラバラだねー。怒られたでしょ?」

以下略 AAS



31:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/01(火) 23:15:55.55 ID:6NLLeJ5C0
「いいえ」とかぶりを振って、ちょっと甘えていたかもしれない、と省みた。実際、罰されて当然の事はした。それで怒られると思わなかったとは、虫がいいのではなかろうか。

「そうなの? ふーん」
 杏は尚も、概観以上の何かを見出そうとしているようだった。
「意外だなー。杏が落として割りかけたときは、こっぴどく言われたもんだけどね」顔も向けず話す。
以下略 AAS



32:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/01(火) 23:16:28.69 ID:6NLLeJ5C0
「贈り物……」
「そーそー」杏は声を低くして語った。「その先輩、プロデューサーに一から十まで叩き込んだ人なんだけどね、お母さんが病気になって、田舎に帰らなきゃいけなくなったんだって。プロデューサーも何とか引き留めようとしたんだけど、やっぱり駄目でね。それで最後の日、夏の日ね、ヒグラシとか鳴いてたの。見送りに行った電車の改札でさ、絶対トップアイドル育てて、世界のはじっこまで輝き届けてくれって、このカップ託されたんだ」

 何かを確かめるように、千夜を覗き込む。
「それ以来、このカップは約束の…… ううん、これはプロデューサーの一等星――夢の象徴だったんだよ」
以下略 AAS



33:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/01(火) 23:16:57.24 ID:6NLLeJ5C0
 話を聞いて、ふたたび破片を見返した。細かいものは少ないし、何処かが消えてなくなったということもないと思う。
「そっかそっか。こんなに大事な物壊されても、千夜の方を心配してたんだね」としみじみ杏。「ふーん。なんか、分かっちゃったなぁ。千夜がどんなに思われてるか」

 千夜は落としていた視線を持ち上げた。
「それは、どういう――」
以下略 AAS



34:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/01(火) 23:17:48.85 ID:6NLLeJ5C0
 彼が胸中の痛みなど感じさせない、いつも通りの顔をしていただけに、かえって躊躇われるなか、千夜は「あの」と切り出した。

「ん?」
「この度は、すみませんでした」
 ここは誠心誠意と思い、頭も下げた。会釈程度に。
以下略 AAS



35:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/01(火) 23:19:04.15 ID:6NLLeJ5C0


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
 
 
以下略 AAS



36:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/01(火) 23:19:31.75 ID:6NLLeJ5C0
 一段落のところで、今度は千夜から切り出す。
「これからお嬢様をお送りしたら、お台場に出掛けたいと思うのですが」
「お台場? うん、いいよ。お買い物?」
「はい」
「魔法使いさん、気に入るといいね」
以下略 AAS



37:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/01(火) 23:20:16.99 ID:6NLLeJ5C0
 心臓が止まったかと思った。その後の全身の血が逆流したような感覚も、千夜の驚愕を表すものだった――私は何を言ったっけ?

「あはっ、可愛い♪ 驚いた?」
「その…… 何故?」
「分かったかって? 千夜ちゃんの事ならぜーんぶお見通しなんだよ?」
以下略 AAS



38:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/01(火) 23:20:47.12 ID:6NLLeJ5C0
「左の手の平、怪我してるよね。隠してるけど、握り方とか向け方とか、千夜ちゃんにしては珍しいよ。だから気にしてたら、手袋が切れてるのも見えちゃった。取って。……ほら、やっぱり絆創膏。消毒は? うん、さすが千夜ちゃん。
 じゃあ何で怪我したかっていったら、私が朝、千夜ちゃんのコーヒー褒めたのが原因だと思うの。《魔法使いさんにも淹れてあげたら?》って。ジャズベも持ってったもんね。あはっ、可愛い。それで魔法使いさんのカップを持って来たんだね。それをどうしてか、割っちゃった。
 それで足や脛じゃなく手、それも指じゃなくて手の平を、しかも利き手じゃない方を切ったのは、単に当たったとか、触った以上の事があったのね。きっと、それが魔法使いさんにとって大事なカップだったから。千夜ちゃんは優しいから、形だけでも戻そうとして拾い集めてみたんだね。それで優しさの証拠がここに。うん、とっても綺麗だよ。ここまでが、千夜ちゃんの左手がお喋りしてくれたこと♪

 魔法使いさんも優しいから、カップなんかいいよって言ったと思うけど、千夜ちゃんは気が済まないよね。何処で買ったかまで聞き出した——少しでも、魔法使いさんの大切≠ノ近い物を贈る為に。単に良い物を買うなら、東京にはいくらでも近場のお店があるのに、渋谷でも銀座でもなくお台場なのはそういうわけ。
以下略 AAS



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