白雪千夜「アリババと四十人の盗賊?」
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108:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:21:04.82 ID:tRJaplXx0
 淡々と彼女が語る程、千夜は身の毛がよだつようだった。ハッタリだ、バーナム効果だのショットガンニングだのいうやつだ、と自分に言い聞かせようとしたが、きっともう心で諦めていた。それこそ恐ろしいぐらい、志希は千夜の内面を暴き立つつある。

 今一度、強く拒むと、意外に手応えもなく解放された。振り返り、相対する形になる。
「知ったことではありません、匂いがどうだろうと。そろそろ稽古に戻らなければなりませんから、失礼します」
「何故?」
以下略 AAS



109:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:21:36.95 ID:tRJaplXx0
 言おうとする千夜を、彼女は目で制止した。憐むような、蔑むような、失望するような目で。

「正義感? 義務感? それとも恐怖感? 望んだ正しい自分でいなきゃならないの? 自分が役に立たない存在だなんて認められないの? ……はあ、理想だの責任だの高潔さだの、ナイフみたいに刺すだけ刺してさ。つまらないとは言わないけど、ツマンナイ。そんなオトナびた理由で足が竦むんなら、あたしがコドモスウィーティーな翼をあげる。否認を奪って、堕落をあげる。そしたら後は跳ぶだけだ。だってさー、疲れたでしょ? 呪文はそうだな、《バウチカバウワウ・ギチギチグー》♪ はいオーケイ。千夜ちゃん、頑張ったね。よくやったね。今までありがとうね、ちゃんと見てたからね。もう大丈夫、どこへでも逃げていいんだよ」



110:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:22:50.02 ID:tRJaplXx0
 耳鳴りがする。畳み掛ける言葉が飽和する。
「馬鹿な。……馬鹿な」
「そりゃそーだ。あたしは自分もジャンキーの麻取にして、聖歌隊に説教する痴れたヤツなのだ」
「、…… はあ。……それ、増えるのですね。その、肩書き、というか」
「カタガキ、…… カエデ?」
以下略 AAS



111:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:23:18.07 ID:tRJaplXx0
 それだけ言って、またしゃがむと花壇に興味を戻した……と思いきや、蟻の行列に特別な意味を見出したらしい。
「結局それですか。逃げろと…… 貴女のように?」
「そ」
 軽く挑発しても、千夜ではちとせがやるようにはいかなかった。志希は黒い帯を見つめたままだ。

以下略 AAS



112:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:23:46.53 ID:tRJaplXx0
 暫時の間があり、
「嵐、…… みたいなモンだから」
 ぽつり、志希がこぼした。

 千夜は口を結んで次を待ったが、志希は当分、働き蟻の行軍パターンに自前の化学物質がもたらした乱れを観測しているつもりらしかった。彼女らの行く先に飴でもあればよいが、などと千夜なりの同情を寄せているばかりでは、どうやら《嵐》の先まで辿り着けそうもない。
以下略 AAS



113:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:24:18.03 ID:tRJaplXx0
「え、嵐……?」
「貴女が言ったのですよ」

 空はまったく晴天だ。


114:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:24:49.16 ID:tRJaplXx0
 彼女は、これもゆっくり、立ち上がった。
「こんな風に誰かと喋ったってさ、儚いものだと思わない?」
 聞きたいのか、聞かせたいのか。祈っているのか、呪っているのか。判断に迷う声を、志希は零した。
「かつて嵐だった虹のようで、十二時に解ける魔法のよう。……イマなんてものは、手に入れようと思った瞬間からアタマにしかないんだ。
 Can I get an Amen(キミもそう思うよね)?」
以下略 AAS



115:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:27:07.47 ID:tRJaplXx0
 ぼうっと、思考が痺れていた。甘い頭痛に悩まされながら、不満足な呼吸を繰り返し、いくつかの道路を横断したかしなかったか、いくつかの歩道橋を渡ったか渡らなかったか、認識も目的地も曖昧なまま、ただ本能のようなものに従って、千夜は灰色の街を這いずった。



116:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:27:36.98 ID:tRJaplXx0
 だから、
「外回りというのは――」

 だから最後には、苛立ちというには刺のない、何か名前のないものを言葉に込めて投げつけた。

以下略 AAS



117:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:28:02.62 ID:tRJaplXx0
 資料から目を上げると、プロデューサー室の椅子を軋ませ、彼は千夜に向き直った。まだ新しい、チェックのネクタイを整える。
「気に入ったか?」
「いいえ」
「そっか? 千夜はアイドルだからな」
 けろりと返す。
以下略 AAS



118:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:28:29.99 ID:tRJaplXx0
 そうして、彼は立ち上がった。机を回り込んでから、その上にある二つの小さな箱を示す。
「これ、千夜がくれたんだって?」
 首肯して、
「あんな下らないことで私に貸しを作ったと思われては面倒なので。もうひとつは文香さんからで…… 心からの贈り物、というやつです」
「そっか。千夜、気にしてくれてたんだな。ありがとうな」
以下略 AAS



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