29: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/14(月) 21:09:02.79 ID:Od9IjqsH0
「私にパスワードを教えて、いいんですか?」
「もちろんです。見られて困るものは全然ありませんし、一緒にスケジュール確認するなら、このほうがいいでしょう?」
「私、Pさんに内緒で、エッチなホームページの履歴を探しちゃうかもしれませんよ?」
「いやいや楓さん。これ、ちゃんとウェブフィルターがかかってますから、最初から見られませんよ」
30: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/14(月) 21:09:54.19 ID:Od9IjqsH0
「楓さん……昨日は本当に、ありがとうございました」
「いえ、ただ一緒に帰っただけですから。少し、落ち着きましたか?」
「ええ……まあ」
31: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/14(月) 21:10:33.88 ID:Od9IjqsH0
「え? ちひろさん、勝手にPさんの手帳出して、いいんですか?」
「はい。Pさんには以前から『ここに手書きのスケジュールとか入れておきますから、いつでも見てください』って言われてましたから。
ほんと、Pさんはオープンな人ですよね」
32: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/14(月) 21:11:22.25 ID:Od9IjqsH0
慌ただしい日々は続く。それでも。
私はどうにか、告別式で焼香できる時間をひねり出すことに成功した。
当日は収録の仕事が入っていたけれど、中抜けをして斎場に向かうことができるよう、事務所のスタッフが手配してくれていた。
みんなギリギリの心理状態であろうに、本当にいくら感謝しても足りないくらい。
33: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/14(月) 21:12:28.09 ID:Od9IjqsH0
そして到着した告別式、僧侶の読経が響く。中に入ると、驚くほど人がいなかった。
小さな祭壇に、社長さんやちひろさんなど事務所スタッフ数名、それからおそらく、彼のお姉さん。
両手で十分数えられる人数。私は茫然とした。
お姉さんと思しき人は、私の顔を見てわずかに会釈した。
34: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/14(月) 21:13:13.56 ID:Od9IjqsH0
収録へ戻る車の中。私は、臨時でマネジメントをしてくれているスタッフに話しかけた。
「本当に」
「……なんです? 楓さん」
35: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/14(月) 21:14:18.80 ID:Od9IjqsH0
手帳を、開く。
Pさんが残してくれた、私のスケジュール。それは半年先まで埋まっていた。
もちろん、これから詳細を調整する必要があるものばかりだけれど、私たちアイドルのスケジュールをこれだけ埋めておけるというのは、やはりPさんの力量が並外れていることの証左と思う。
カレンダーの後ろ、メモのところにはびっしりといろいろなアイディアや備忘録、彼の考え方や私のことなどで埋め尽くされていた。
36: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/14(月) 21:15:26.03 ID:Od9IjqsH0
社長さんから、Pさんの後任の打診を受ける。Pさんの先輩で、プロデューサーとしての実力も確かな人だった。
「高垣さんには酷な話だと思っています。だが我々も万全の体制で、引き続き頑張っていきたいと考えています」
「……」
37: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/14(月) 21:16:08.17 ID:Od9IjqsH0
「……それは、P君のことが忘れられない、ということなのですかね?」
社長さんが問う。
38: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/14(月) 21:17:13.10 ID:Od9IjqsH0
わがままだということは十分分かっている。だがどうしてもこれだけは、譲れない。
社長さんは手帳をテーブルに置くと、両手を組んで私に言った。
「高垣さんの想いは分かりました。ただ、それでもセルフでというのは、承諾できません」
39: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/14(月) 21:18:25.87 ID:Od9IjqsH0
翌日。オフであった私に一本の電話が届く。チームの構成について打ち合わせをしたい、ということだった。
私は早速事務所へ顔を出した。
「おはようございます」
216Res/171.18 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20