168: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/24(木) 21:34:41.65 ID:itU6iUE10
どきりとする。
確かに、今の私の気持ちを話せるかと言えば、それは難しい。なぜなら彼女は私の知らない他人、なのだから。
「そう、ですね」
169: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/24(木) 21:36:22.62 ID:itU6iUE10
私はようやく、仕事を再開する。
歌番組の収録。録画ものでインタビューなし、という、今の私にはありがたいものだ。しかも瑞樹さんと共演。
事務所スタッフの努力と配慮に感謝しながら、スタジオへ向かった。
170: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/24(木) 21:36:49.44 ID:itU6iUE10
「せっかくお勧めしていただいたのに、なにか申し訳なくて」
「いいのよ、私も気楽に言っただけだし。そうね。今度は体もリフレッシュするように、全身エステ、行きましょ?」
「そう、ですね。ぜひ」
「じゃあ、今日は楓ちゃんの復帰初仕事、頑張りましょう!」
171: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/24(木) 21:37:16.71 ID:itU6iUE10
歌詞が、飛んだ。
172: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/24(木) 21:37:44.50 ID:itU6iUE10
瑞樹さんとのデュオで、歌い慣れていたはずの曲。歌詞が出てこない。頭が真っ白になったのだ。
「す、すいません……大丈夫、です」
「ごめんなさい! 五分、休憩ください!」
173: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/24(木) 21:38:34.46 ID:itU6iUE10
「……瑞樹、さん」
「大丈夫? 楓ちゃん」
「ごめんなさい……飛んでしまい、ました」
「いいのいいの、久しぶりだし。大丈夫だから」
174: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/24(木) 21:39:00.96 ID:itU6iUE10
緊張が止まらない私に、瑞樹さんがウインクを投げる。その仕草が、私にすっと入り込んできた。
ああ、いつもの瑞樹さんだ。
ようやく、緊張の糸が解ける。涙がこぼれそうになるけれど、私はそれをこらえ、瑞樹さんに言った。
175: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/24(木) 21:39:28.39 ID:itU6iUE10
私は、薬を飲む。
オランザピンに変えて三か月。なかなか気持ちをコントロールするのが難しい。
先日は部屋で大泣きをして、ちひろさんを困らせてしまった。
176: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/24(木) 21:39:57.70 ID:itU6iUE10
先生に、今のわたしを打ち明ける。
ふたりの私がいること、感情の浮き沈みがまだ激しいこと、そのために心が、疲れてしまうこと。
「そうですね……高垣さんの今は、まだ過渡期なんだと思います」
177: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/24(木) 21:40:35.49 ID:itU6iUE10
「お帰りなさい」
「ただいま、帰りました」
ちひろさんがマンションで、私の帰りを待ってくれていた。
216Res/171.18 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20