高垣楓「あなたがいない」
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172: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/24(木) 21:37:44.50 ID:itU6iUE10

 瑞樹さんとのデュオで、歌い慣れていたはずの曲。歌詞が出てこない。頭が真っ白になったのだ。

「す、すいません……大丈夫、です」
「ごめんなさい! 五分、休憩ください!」

 私がアピールするものの、プロデューサーがそれを制した。

「了解でーす。じゃあ次の歌い手さんを先に収録しますんで、それでいいですか」
「はい、お願いします」

 収録スタッフとプロデューサーのやり取り。私は瑞樹さんに付き添われ、楽屋へ戻った。
 どき。どき。
 鼓動が鳴り響く。色を失った私に、瑞樹さんが声をかける。

「楓ちゃん。楓ちゃん! 大丈夫よ。大丈夫。ほら、お茶飲んで」

 手渡された紙コップを、両手で掴む。手がわずかに震えていた。
 こくこくとお茶を飲む。少しだけ気持ちが、戻ってきた。




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