116: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/21(月) 22:59:52.09 ID:brMXuKjJ0
私は、薬を飲む。
泣きはらして多少は、心が軽くなったかもしれないけれど。日々は変わることなく、流れていく。
私の調子は一進一退というところで、決して芳しいとは言いにくい。それでもライブはやってくるわけで。
117: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/21(月) 23:00:38.63 ID:brMXuKjJ0
ライブ当日。開演一時間前。
私はいつになく落ち着かなかった。
「おや楓さん。緊張してます?」
118: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/21(月) 23:01:11.10 ID:brMXuKjJ0
なにに対して不安になっているのか、私自身認められていない。漠然とした、ちりちりという焦燥感。それでも。
その時は、やってくる。
ふとプロデューサーの言葉を思い出す。人間くさい、私。彼らはそういう私が好きなのだ、と。そして、気付く。
ああ、Pさんもそう言っていた。完璧じゃない、人間くさい私が好きなのだ、って。
119: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/21(月) 23:01:43.29 ID:brMXuKjJ0
舞台袖、私は佇む。客席の熱気と緊張が、肌に伝わってくる。ベルが鳴った。
「本日は、高垣楓アコースティックライブにお越しくださいまして、誠にありがとうございます……」
120: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/21(月) 23:02:11.76 ID:brMXuKjJ0
「本当に今日はありがとうございます……アンコールまで、こうして待っていただいて、嬉しいです」
わああ、と。沸く客席。そして私に求められている曲、それを私は知っていた。
121: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/21(月) 23:02:45.05 ID:brMXuKjJ0
――渇いた風が 心通り抜ける
――溢れる想い 連れ去ってほしい
シャンソンのように。ピアノの自由律に私は、語り掛けるように歌う。顔を上げ客席を見れば、そこは緑の光の洪水。
122: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/21(月) 23:03:12.28 ID:brMXuKjJ0
――満ちて欠ける 想いは今
――苦しくて溢れ出すの 立ち尽くす風の中で
助けて。
123: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/21(月) 23:03:39.97 ID:brMXuKjJ0
「きゃああああああああああ!」
124: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/21(月) 23:04:07.73 ID:brMXuKjJ0
客席から響く叫び。そして、嘆き。
浮遊感。
光を、掴み損ねて。
私は。
125: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/21(月) 23:04:35.02 ID:brMXuKjJ0
※ 今日はここまで ※
ではまた ノシ
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