14:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 17:13:31.28 ID:W5lmC8VA0
千夜ちゃんを送り出した私は、この先誰かに干渉したり、何かを与えたりするのかな?
世界の片隅にポロリと落っこちた、名も無き部品という立場で、最期の時まで傍観し続けるのも、それはそれで――。
15:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 17:17:00.76 ID:W5lmC8VA0
ポカポカ陽気が差し込む光の中へ躍り出て、その子の背後からそぉっと近づいてみる。
2m……1m……。
よほど集中しているのか、こんなに近づいても気がつかない。
お花のモチーフをあしらったシュシュで留まる柔らかなポニーテールが、私の目の前でふわふわと揺れている。
16:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 17:18:26.09 ID:W5lmC8VA0
「…………」
私の姿を観察し、この子なりに何かを得心したのか、やがて彼女はニコリと小さく微笑んだ。
それは、相手との間合いを量るための、打算的な取り繕いとは違う。
17:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 17:20:21.90 ID:W5lmC8VA0
曖昧な返事をして首を傾げる私に、彼女はクスリと優しく笑って、丁寧に言葉を紡いだ。
「お散歩が、好きなんです。
綺麗に咲いたお花、吹き抜ける風、空にかかる虹……さっきのあの子だけじゃなく、色んなものに出会うことができます」
18:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 17:22:15.08 ID:W5lmC8VA0
明るい陽光の下は、普段そんなに好きじゃないんだけど、たまには良いことあるんだなぁ。
「自己紹介がまだだったよね。
私は、黒埼ちとせ。それ以外は、今はナイショ♪」
19:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 17:26:38.97 ID:W5lmC8VA0
「お嬢さま、何をご覧になられているのですか?」
千夜ちゃんは、珍しく帰りが早かった。
夕食の準備をしながら、台所から普段よりも通る声で私に問いかける。
今日はボーカルトレーニングだったんだね。
20:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 17:27:59.79 ID:W5lmC8VA0
「346プロ……」
ブログのプロフィールを見て、千夜ちゃんが呟いた。
魔法使いも言っていた、大手の芸能事務所だ。
21:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 17:30:08.69 ID:W5lmC8VA0
私の身勝手な行動が今に始まった話でないことは、千夜ちゃんも十分に分かっている。
だから、きっとアレは、今の忠告が馬耳東風に終わることを悟ったため息。
「ごめんね、千夜ちゃん」
22:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 17:31:04.38 ID:W5lmC8VA0
あの頃と違って、千夜ちゃんはしっかりと自分の人生を歩んでいる。
正しく順風満帆と言って良い。
黒埼の従者としての使命から解き放たれて、自分の足でしっかりと。
23:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 17:34:31.70 ID:W5lmC8VA0
その日以来、私と藍子ちゃんは友達になった。
お互いに示し合わすわけでもなく、公園で散歩している時に度々会っては、他愛の無い話に花を咲かせるのだ。
「撮り方、と言われても、うーん……シャッターを押すだけとしか」
24:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 17:36:25.18 ID:W5lmC8VA0
最近では、スマホでもデジカメ並みに質の高い写真を撮れるようになったという。
品質や利便性を考えれば、写真なんてそっちを採用する方がいい気がする。
だのに、あえてこのチャチなカメラに楽しみを見出すあたり、藍子ちゃんもなかなかのロマンチストだね。
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