芹沢あさひ「この雨がいつか止んだなら」
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79: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 20:48:45.20 ID:hoMUvMIQo

 わたしの詞が最後まで書きあがったら、最初にそれを読むのはプロデューサーさんってことになるんすか?
 そうなるだろうね。あさひが他の誰かに先に見せない限り。
 誰にも見せないっすよ! プロデューサーさんが、えっと、わたしを信じて? こうして持ってきてくれた仕事っすから、最後までちゃんとやりきってみせるっす! これは本当っす!
 うん。あさひの言葉が届く日を楽しみしているよ。これも本当だ。
以下略 AAS



80: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 20:49:36.90 ID:hoMUvMIQo

  *

 それから、どれくらいの時間が経過しただろう。
 二〇分ほどか、もっと長くか、あるいは短くか、何の意味もなしに、ただ茫然と私はその場に立ち尽くしていた。
以下略 AAS



81: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 20:50:14.58 ID:hoMUvMIQo

 ここへ来れば何かが変わるだろうかと思って、でもそれはあり得ないということもやはりどこかでは解っていた。
 それでも私はここまでやってきて、その想像がただの想像でしかなかったということをわざわざ証明したのだった。

 ずっと言葉を探していた。本当のことは何もみつけられなかった。
以下略 AAS



82: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 20:51:08.18 ID:hoMUvMIQo

「――あさひっ!」

 突如、私の名前を叫ぶ声とともに上半身を激しい揺れが伝った。

以下略 AAS



83: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 20:51:41.18 ID:hoMUvMIQo

 すぐに考えた。いまこの場で何が起こっているのか。それは想像に難くない。

 彼はあらかじめ宣言していた通り、ある程度したら車を出てこちらに来るつもりだったのだろう。
 でも、それよりも先に、あるいは車を出てしばらくしたところかもしれないが、さきほど止んだはずの雨がまた降り始めたことに気がついた。
以下略 AAS



84: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 20:52:11.53 ID:hoMUvMIQo

「じゃないっすか、じゃあないだろ。ほら」

 彼は呼吸を整えようともせずに、左手を差し出した。
 私はそれを受け取って、酷く濡れている髪の上にとりあえず乗せる。
以下略 AAS



85: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 20:52:37.16 ID:hoMUvMIQo

 もう一度振り返って、私の視界は再びそれを捉える。

 ――ここにあるのは、だから、たったこれだけだ。

以下略 AAS



86: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 20:53:28.48 ID:hoMUvMIQo

 すぅ、と小さく息を吸いこむ音がした。
 そのあとを追いかけるようにして、でも、とやけに掠れた声が雨脚の隙を縫って私の背を叩く。

「でも、本当のことなんだ」
以下略 AAS



87: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 20:54:00.25 ID:hoMUvMIQo

 それっきり私は何も言わなかった。そして、それは彼も同じだった。

 私たち二人が抱えたどうしようもない沈黙を、予定調和の夕立が綺麗に流し去っていく。
 薄い耳鳴りのような雨音は酷く心地がよくて、とても拭いきれないその感覚が、だけど、だから、堪らなく嫌だった。
以下略 AAS



88: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 20:54:29.28 ID:hoMUvMIQo

 ――ずっと雨が降っている。
 その始まりは、最早思い出すことが出来ない。
 いつの日からかずっと、今日に至るまで、私の空には雨が降り続いている。
 いつかの私は雨の冷たさを嫌って、だから傘を欲しがって、だけどいまはもうその感情の行方さえ不確かで曖昧だ。
以下略 AAS



89: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 20:54:57.91 ID:hoMUvMIQo

「あさひ」




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