芹沢あさひ「この雨がいつか止んだなら」
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85: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 20:52:37.16 ID:hoMUvMIQo

 もう一度振り返って、私の視界は再びそれを捉える。

 ――ここにあるのは、だから、たったこれだけだ。

 鏡のように白く反射する光沢を帯びた石、それを積み上げて造られた見てくれだけのがらんどう。
 そして呪いみたいな黒で刻まれた、知らない誰かの名前。

 それだけ。

 他には何もない。

 濡れた前髪を伝って零れた雫が、ぽつり、と音を立てて石畳を叩く。
 聞こえるはずのないその音を、聞こえはしなかったその音を、私は合図にして言う。

「なんか、実感ないっすね、やっぱり」

 彼の表情はみえない。彼は返事を探しているみたいだった。
 私は彼の答えを静かに待った。何かを切に訴えるような物悲しい鳴き声が、ずっと遠くのほうに聞こえた気がした。




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