芹沢あさひ「この雨がいつか止んだなら」
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86: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 20:53:28.48 ID:hoMUvMIQo

 すぅ、と小さく息を吸いこむ音がした。
 そのあとを追いかけるようにして、でも、とやけに掠れた声が雨脚の隙を縫って私の背を叩く。

「でも、本当のことなんだ」

 彼がその言葉を口にするのにどれほどの時間を要したのか、その言葉を他ならぬ私に伝えるのにどれほどの勇気を要したのか、私なんかにはとても想像がつかなかった。
 だから、せめて私はそれに本心から頷いて、それから答える。

「そうっすね。全部、本当のことっす」

 そう。
 全部が本当のことだ。

 傘も、死も、別れも、思い出も。

「全部、今更どうにもなるはずがない、過去の話っすよ」




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