30: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 20:16:45.37 ID:hoMUvMIQo
「東名高速道路。東京と名古屋を繋いでるから、その頭文字をとって東名」
トウメイ、と私は何とか反復してみる。
トウメイ、東名、トウメイ。
31: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 20:17:24.99 ID:hoMUvMIQo
「ああ。それは事前に説明した通りだ」
「わたし、それまで知らなかったんすよ。プロデューサーの出身がどこなのか」
「あれ、そうだったのか。てっきり知ってるものだと」
「神奈川だったんすね。その茅ヶ崎って町はどんなところなんすか?」
32: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 20:17:52.62 ID:hoMUvMIQo
想像上の場面を色々と切り替えてみる。
照り付ける太陽と青空の下。あるいは真夜中、下弦の月を反射する水面。
それから、しとしとと降り続く雨を呑み込む広大な黒。
だけど、いずれにしたって、その姿はまるで不自然な合成写真みたく風景に浮いていた。
33: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 20:18:25.47 ID:hoMUvMIQo
「プロデューサーって、お酒飲む人だったんすね」
「意外か?」
「意外といえば意外っすね。そんなイメージがあまりないっていうか」
「その感覚は正しいよ。大学にいた頃は、たしかに飲み会なんかは敬遠してた」
34: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 20:19:17.96 ID:hoMUvMIQo
高速道路でしか見かけないような警告色の看板が、前方からフロントガラスの上部へと消えていく。
白色の文字で何やら書かれていたが、それ以上のことは何も分からなかった。まあ、私がそれを読む必要はあまりない。
差し当って重要な情報であるところの目的地までの概算距離は、備え付けられたカーナビの左下あたりに表示されている。
35: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 20:20:07.58 ID:hoMUvMIQo
「だから言ったろ」
プロデューサーさんは呆れた様子で、視線をわずかに上へ動かす。
36: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 20:21:29.59 ID:hoMUvMIQo
今日の午後から雨が降り始めるという天気予報は、そう考えてみるとなんだか妙に説得力があるように思えた。
たとえばそれこそ神様のような誰かがいて、いたとして、その誰かが書いた台本の上ですべて決まっていたのでは、という気さえする。
今日の天気も、私たちの行動も。傘も、死も、別れも、思い出も。
37: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 20:22:37.33 ID:hoMUvMIQo
前方から再び緑色の看板が流れてくる。
白色の文字で、茅ヶ崎、と書かれているのが見えた。
彼は多分、その看板自体は一瞥した程度だっただろうと思う。それでも車は分かれ道の右側へと正しく進む。
38: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 20:23:09.70 ID:hoMUvMIQo
「『何者かになりたいと思ったことってある?』」
運転席が小さく息を呑んだような気がした。
きっと私の勘違いだろうけれど、でも、たしかにそう感じられるような一瞬の隙があった。
39: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 20:23:38.69 ID:hoMUvMIQo
「あさひは、答えを見つけられたのか?」
「答えっすか。まあ、それなりには」
「そっか。そりゃよかった」
40: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 20:24:13.83 ID:hoMUvMIQo
最後に零したその言葉が、どうやら合図だったらしい。
次の瞬間、ぽつり、とフロントガラスの真ん中あたりに砂粒みたいな水滴が一つ分だけ落ちてきた。
それが二つ、三つと続いて、数秒足らずのうちに視界は無数の雨粒で覆われる。
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