122: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 21:13:58.31 ID:hoMUvMIQo
「じゃあ、これが悲しいってことにしておくっす」
そうして私は、この痛みに名前をつけた。
心の奥に深く刺さったままで抜けない楔を、私は悲しさと呼ぶことに決めた。
123: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 21:14:34.68 ID:hoMUvMIQo
「プロデューサー」
もしあの人の目にも私が泣いているように映っているのだとしたら、それはとても悲しい。
私たちを染め上げる青の色が、誰の目にも悲しい色としては映っていてほしくない。
124: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 21:15:24.50 ID:hoMUvMIQo
その最中、私は不意に思い出す。あの日、酷い雨の夜、歩道を歩いていた水色の傘の少女のことを。
いまにして思えば、私はあのとき既にすべての答えと出会っていた。
いつかの私は、あの少女のことがただ純粋に羨ましかったのだ。
125: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 21:16:11.47 ID:hoMUvMIQo
随分と西に傾いた太陽が、近くの水溜まりに反射して眩しかった。
あんなにも重く沈んでいた空はもう十分な高度を取り戻している。
それは絵に描いたような夏空だった。
澄んだ青は千切れた雲で部分的に隠されていて、だからこそ、その間を縫って、どこまでも飛んでいくことができそうな空だった。
126: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 21:16:39.06 ID:hoMUvMIQo
雨は止んだ。
だから、また歩き出すんだ。
傘なんかなくたって、どっちが前なのか分からなくたって、それでもその一歩の正しさを信じて歩いていくんだ。
127: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 21:17:33.89 ID:hoMUvMIQo
「さよなら」
微かな熱を帯びた何かが、頬に伝う。
それは多分、あの日、空っぽだった私を満たしていった雨雫の、最後の一滴だった。
128: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 21:18:07.27 ID:hoMUvMIQo
*
お疲れ様。……どうしたの?
どうしたって、何がっすか?
129: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 21:18:49.51 ID:hoMUvMIQo
雨は嫌い?
嫌いってわけじゃないんすけど、わたしは晴れてるほうがいいっす。プロデューサーさんは違うっすか?
どうだろう。気分次第であるところは否定できないけれど、でも晴れの日と同じくらい雨の日も好きかな。
なんでっすか?
130: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 21:19:22.54 ID:hoMUvMIQo
場合によるっす。無機物ならとりあえず手に取ってみると思うっす。
あさひはそうだろうね。でも、普通はしない。場合にもよるけれど、自分がよく知らないものというのは恐怖の対象だ。大体の人間は自分が知っている世界の中でだけ生きている。その中でしか生きられない。だから、触れずに放置しておく。
それがさっきの話とどう繋がるんすか?
あさひは自分の知らないものを一先ず善と決めて知ろうとする。一方で私は自分の嫌いでないものを一先ず善と決めて好きでいようとする。少し脱線したけれど、そういう話。
131: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 21:20:05.40 ID:hoMUvMIQo
好きと無関心が反対になることもある。だけど、それは視点の問題だ。嫌いなものがあるから好きなものがあって、好きなものがあるから嫌いなものがある。そういう意味で、この二つは反対だ。
わたしには好きも嫌いも同じものに思えるっす。
なるほど。それは詳しく聞きたいな。
たとえばなんすけど、プロデューサーさんは恋と依存の違いって何だと思うっすか?
153Res/110.09 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20