193: ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/05/08(金) 22:14:26.48 ID:9DhA16vx0
だからこのみは、笑ってこう言った。
「プロデューサー。けど、心配しないでね。
この演劇のお仕事は、私が自分でやると決めたことだから。
194: ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/05/08(金) 22:15:39.55 ID:9DhA16vx0
彼は、少しだけ逡巡した様子だった。
深く息をしてから、彼はつぶやくように言った。
「……やっぱりファン側も、寂しいんです。このみさんと会えなくなるのは。」
195: ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/05/08(金) 22:16:08.52 ID:9DhA16vx0
「……でも。」
張りつめそうになった空気のなか、彼はそう言った。
その声を聞いて、このみは顔を上げた。
196: ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/05/08(金) 22:16:35.16 ID:9DhA16vx0
このみはもう、彼のその言葉の先に何があるかを知っていた。
逸る気持ちに胸が高鳴ることを自覚しながら、このみは彼を見て、確かめるように呟いた。
「そ、それって……。」
197: ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/05/08(金) 22:17:44.90 ID:9DhA16vx0
「例え大切な人と会えない日が続いても、
次会える日まであと何日だろう、って数えてみたり、
どういう服を着ていこうかな、って考えてみたりするのも楽しくて。
しばらく会えなかったとしても、その会えなかった日の分だけ、会えたときにほっとして嬉しくなる。
198: ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/05/08(金) 22:18:21.38 ID:9DhA16vx0
このみには、あの心地良い歓声が聞こえてくるようだった。
気が付けば劇場のみんなと舞台の上に立っていて、大勢の観客たちの前で歌を歌っていた。
ふと前を見れば、色とりどりの光の向こう側に、特別な人たちがいた。
一人、また一人と、ステージからの光に照らされるようにして、大切な人たちの顔が見えた。
199: ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/05/08(金) 22:19:11.33 ID:9DhA16vx0
胸の中にずっとしまい込んでいたものがあった。
本当はそう信じていたかった。
でも、もし違ったら。そうでなかったのなら。
……傷つくのが怖くて、ずっと見て見ぬふりをしてきたのかもしれない。
200: ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/05/08(金) 22:19:59.87 ID:9DhA16vx0
劇場のステージで、大切な人たちへ想いを届けようとしたはずなのに、いつだってそれよりもっと大きなものを貰っていた。
私は、自分の気持ちをいつも伝えられずにいて、受け取ってばかりだ、と。ずっと、そう思っていた。
だけど、今はもう分かる。
私がずっと伝えたかった想いは、きちんと私の大切な人たちに届いていたんだ。
201: ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/05/08(金) 22:20:38.26 ID:9DhA16vx0
声を詰まらせながら、このみは自問するようにそう呟いた。
ただ、このみはその答えが何であるかを既に知っていた。
知っていたから、涙が溢れて止まらなかった。
202: ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/05/08(金) 22:21:33.39 ID:9DhA16vx0
指で涙を拭いながら、このみはゆっくり顔を上げた。
差し出されたハンカチを受け取りながら、このみは声をもらした。
「……ごめんなさいね、プロデューサー。私……。」
203: ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/05/08(金) 22:22:27.11 ID:9DhA16vx0
「そ、それは……。」
彼は右手で、ぐしぐしと自分の涙を払った。
それから、彼は指先を頭に当てて小さく呼吸をした。
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