2: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/06/10(月) 20:05:07.97 ID:9pdDfgPfo
午後7時半にその病院へ駆けつけたとき、エミリーは診察室のベッドに座り込んでじっとしながら、医者の先生と看護師さんの会話を眺めていた。
いつものツインテールを解いたきらびやかな金髪を不揃いに横切る包帯が痛々しく映るも、当の彼女は心ここにあらずといった態度でただそこにいた。
医者の先生の話によると、エミリーは転んだ際に側頭部を強く打ち、そのまま数分間意識を失っていたとのことだ。
すぐさまこの病院へ連れてきて念のため一通りの検査を行ったものの、一応、脳に異常は見つからなかったらしい。
3: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/06/10(月) 20:06:27.55 ID:9pdDfgPfo
「エミリー、すまなかった。 俺が劇場にいて監督できていれば防げたかもしれないのに……」
しゃがみ込んで彼女に目線を合わせ、ゆっくり話しかけていく。
彼女は俺の目を見つめながら、ブンブンと首を横に振った。
4: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/06/10(月) 20:08:04.11 ID:9pdDfgPfo
「I... I apologize for causing you concern, but... I... I...」
5: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/06/10(月) 20:10:40.40 ID:9pdDfgPfo
──────
きっとエミリーは幼い頃から、劇場の誰もが思い及びすらしない血の滲むような努力を重ねてきたに違いない。
6: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/06/10(月) 20:12:44.63 ID:9pdDfgPfo
「エミリー」
不安そうな面々に囲まれた彼女に一言だけそう呼びかけると、彼女はゆっくりこちらを見つめてくる。
7: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/06/10(月) 20:14:45.84 ID:9pdDfgPfo
「……差し当たっては、当分劇場でのエミリーの出演は全てキャンセル。
ユニット曲については、代替メンバーに入れ替えての続行か、人数を減らしたままの続行かの選択肢がありますが詳細は検討中です。
また再来週までに雑誌取材三件、ラジオ出演一件、テレビ出演二件のアポが入っていましたがこれも先方へ断りの連絡を入れておきます。
各メディアへの発表はどうしましょう」
8: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/06/10(月) 20:20:31.72 ID:9pdDfgPfo
その場にいる全員が静まりかえった隙に、伊織はさっさとドアを開けて部屋へ入ってきてしまった。
「……エミリーも、いたのね」
9: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/06/10(月) 20:22:13.88 ID:9pdDfgPfo
「ありがとう。お前がいなかったら……」
「礼なんか要らないわよ。 この子がどれだけ辛いか想像したら、いてもたってもいられなくなって……」
まあ、ユニットのリーダーとしてメンバーのために動くのは当然よ、と照れ隠しに伊織が言い放つ。
10: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/06/10(月) 20:23:45.42 ID:9pdDfgPfo
*
さらに翌日、エミリーが劇場に帰ってきたと聞いて駆けつけたアイドルたちに、伊織と俺で事の顛末を丁寧に説明していく。
皆よほど心配していたようで、今日まで何も知らせていなかったぶん少し罪悪感もあった。
11: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/06/10(月) 20:25:36.28 ID:9pdDfgPfo
結果として、他のアイドルたちはエミリーが(今のところ)日本語を話せなくなっている、という事にそこまで悲観的な印象を抱かずに済んだ。
これは伊織がそばにいて、きちんとエミリーとのコミュニケーションを成立させる橋渡しをしてくれたからに他ならない。
皆最初はエミリーの英語に驚いていたものの、むしろ新鮮さすら覚えていたようだ。
事態が事態なだけに複雑な思いもあるが、ひとまずはこれでいい。
12: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/06/10(月) 20:27:47.47 ID:9pdDfgPfo
*
その日のユニットでのリハーサルは内容修正の確認と二、三度の通しでの演奏程度に留めることにした。
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