2: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/06/10(月) 20:05:07.97 ID:9pdDfgPfo
午後7時半にその病院へ駆けつけたとき、エミリーは診察室のベッドに座り込んでじっとしながら、医者の先生と看護師さんの会話を眺めていた。
いつものツインテールを解いたきらびやかな金髪を不揃いに横切る包帯が痛々しく映るも、当の彼女は心ここにあらずといった態度でただそこにいた。
医者の先生の話によると、エミリーは転んだ際に側頭部を強く打ち、そのまま数分間意識を失っていたとのことだ。
すぐさまこの病院へ連れてきて念のため一通りの検査を行ったものの、一応、脳に異常は見つからなかったらしい。
そこまで聞いてから俺はようやく胸を撫で下ろした。
「ただし、外的ショックによる健忘の兆候も見られます。よく話をされたほうが」
「健忘? それって記憶喪失ってことですか?」
「いえ、そこまでの大げさなことではありません。 まず、転んだ前後の記憶はないはずです。
これは頭を打てばよくあることなので仕方ないのですが……他にも、忘れたり思い出せなかったりすることがあるかもしれないということです」
「はぁ……」
ドラマや漫画でこういう状況を目にした事はあるものの、実際に当事者でないとはいえ、自分がその場に立つと全く実感も湧かないものである。
改めて目をやると、ベッドに座って黙ったままのエミリーはさきほどからずうっと口を固く結んで黙り込んだままこちらを見つめている。
よくみると両目にうっすらと涙も浮かべていた。
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