42:名無しNIPPER[saga]
2019/04/28(日) 21:26:40.66 ID:D/gZfYJM0
なりゆきと気まぐれで始めたピンクのキンモクセイ作りは、思いのほか時間を要する。
それは、あたしにとってはたぶん、歓迎すべきことだった。
絵の具のようにピンクの色素を配合すればピンクになるわけではない。
計算と予測、そして――根気だ。
43:名無しNIPPER[saga]
2019/04/28(日) 21:29:28.91 ID:D/gZfYJM0
「仕事を休みたい?」
驚きの色を多分に含んだ彼の声が事務室に響く。
「すみません、Pさん」
44:名無しNIPPER[saga]
2019/04/28(日) 21:30:59.94 ID:D/gZfYJM0
「理由は聞かないであげてよ」
あたしは二人の間に割り込み、プロデューサーににへらと笑った。
「あたしなんかと違って、夕美ちゃんが大事なお仕事をすっぽかすような子じゃないの、プロデューサーも知ってるでしょ?
45:名無しNIPPER[saga]
2019/04/28(日) 21:34:18.12 ID:D/gZfYJM0
「……それで、私に何か、用?」
陽が落ちるのも早いし、マンションの屋外廊下を通り抜ける風も肌寒い。
一緒の仕事帰り、マフラーに顔を埋めながら自分の部屋の鍵を開ける夕美ちゃんは、あたしに不安げな表情を見せていた。
46:名無しNIPPER[saga]
2019/04/28(日) 21:37:22.75 ID:D/gZfYJM0
花が――お部屋の中に、一つも無い。
いや、さっき通った玄関と、トイレと、冷蔵庫の上――。
そういう所には、申し訳程度だけど、あるにはある。
47:名無しNIPPER[saga]
2019/04/28(日) 21:40:09.38 ID:D/gZfYJM0
「んーと……こっちの子達は、温度とか湿度とか、気にしてあげる必要があるの。
ほら、最近、寒いし」
「ふーん」
48:名無しNIPPER[saga]
2019/04/28(日) 21:43:12.43 ID:D/gZfYJM0
「えっ? あ……うん、いいよっ」
夕美ちゃんの表情は、本当にコロコロとよく変わる。
彼女はおそらく、ロクにウソを付いたことすら無いんだろうな。
49:名無しNIPPER[saga]
2019/04/28(日) 21:45:17.71 ID:D/gZfYJM0
「……志希」
あたしの後ろで、彼の緊張した声が聞こえた。
振り返るとやはり、相当に焦っている。まーそりゃそうか。
50:名無しNIPPER[saga]
2019/04/28(日) 21:46:34.50 ID:D/gZfYJM0
「プロデューサーはさ、知ってる?」
「何?」
これから大舞台に立とうとゆー担当アイドルに向かって、そんな暗い表情ばっかしてていいのかねキミ?
まったく、かくして人はガラにも無い役回りを演じるハメになるのだ。
51:名無しNIPPER[saga]
2019/04/28(日) 21:49:08.49 ID:D/gZfYJM0
――――。
あたし、また何かやっちゃいましたか?
なーんて、流行りの言葉では言うらしい。
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