499:名無しNIPPER[saga]
2020/02/10(月) 18:57:29.48 ID:CaLDwjtG0
愛栗子「こ、ん……?」
唐突な抱擁に一瞬らしくなく赤面する愛栗子。だがその言葉の意味をゆっくりと噛みしめて彼のみぞおちに額をうずめるとまたいつもの調子にもどって堂々と想いを告げた。
愛栗子「……うむ。惚れ直したぞ紺。やはりわらわの真の恋愛はぬしとでなければならぬ……迷いもあったが、ふみにそれを思い知らされた」
500:名無しNIPPER[saga]
2020/02/10(月) 18:58:32.97 ID:CaLDwjtG0
愛栗子は紺之介にもう一歩深く寄りかかると彼の手に金色の懐中時計を握らせた。
紺之介「南蛮のものか……?」
愛栗子「絶世の美少女の魂を封じた幼刀 愛栗子-ありす- 。ものにしたくば全力を尽くせ。して、全力を尽くしたくばわらわを振え。それはわらわの真の刀じゃ。露離魂を持つ所有者が使えば心の臓に負荷をかけることで常人にはない速さを得る。わらわがために魂を燃やせ」
501:名無しNIPPER[saga]
2020/02/10(月) 18:59:20.10 ID:CaLDwjtG0
紺之介「これが……なるほど。しかし取り憑いて早死を誘うとはいよいよ妖刀らしくなってきたな」
揶揄うように薄ら笑いを浮かべる紺之介に愛栗子は「笑い事ではない」と頬を膨らませた。
愛栗子「貸してやるのは決戦のときまでじゃ。わらわはできるだけぬしと共に生きたいと考えておる。故にこれでも貸すのを渋っておったのじゃ。しかしわらわ自身が戦場に立つのはならぬのであろう?」
502:名無しNIPPER[saga]
2020/02/10(月) 19:00:10.24 ID:CaLDwjtG0
手を後ろに組んで機嫌良く鼻歌を歌いながら宿へと戻る愛栗子。
その姿は紺之介の目に久しく映った。彼女が愉快にこっぽりを鳴らす度、ふきぬける凛とした令風が彼の中にあった不安の靄をも払いのける。
覚悟引き締められつつもなだらかになっていく心の中、紺之介はハッとして愛栗子を呼び止めた。
503:名無しNIPPER[saga]
2020/02/10(月) 19:02:04.24 ID:CaLDwjtG0
紺之介がそう問いかけると愛栗子はフッと微笑を浮かべ彼から見て後ろ姿のまま答えた。
愛栗子「始まりなぞもはやどうでもよかろ? わらわはただ、現世にとどまったこの身で今ぬしに恋い焦がれておる。それだけの話じゃ。しかしそうじゃの……あえて言うのならば」
504:名無しNIPPER[saga]
2020/02/10(月) 19:02:54.57 ID:CaLDwjtG0
その日の夜の夢、紺之介は父と修行した過ぎ去りし日を見た。
庭木の花弁が散りゆく陽の中で、共に竹刀を振るが二人。
百と大きく声を張り上げた少年に、その子の父は手を置いて撫でた。
505:名無しNIPPER[saga]
2020/02/10(月) 19:03:41.95 ID:CaLDwjtG0
最高「はっはっはっ! 紺之介、やはりお前には輝く才気がある! この俺よりな! もしや将軍様の子かもしれんな」
紺之介「……? おれは父上と母上の子ではないのですか? もしやめかけの……!? いやしかしそれだと将軍様というのは……」
一人混乱する紺之介に最高は待て待てと言って諭す。
506:名無しNIPPER[saga]
2020/02/10(月) 19:05:06.63 ID:CaLDwjtG0
紺之介「将軍様は将軍様の兄弟や息子がつぐのではないのですか?」
最高「ははっ、それはそうだがな紺之介。将軍様は俺なんかよりさらに女好きなんだ。となれば妾との子もそれなりだ。しかしその子供はときに乱世をも生み出す」
最高「となれば赤子の道は茨の生か残酷な死か。もし茨の道を選んだのなら影で生きるため真名は隠さねばならん。よって先ずは姓を変えねばならぬのだが不望の子とて城生まれの男。親もその誇りを我が子から完全に奪ってしまうのは忍びないだろう? よってまずは読みを変えたと聞く」
507:名無しNIPPER[saga]
2020/02/10(月) 19:08:00.82 ID:CaLDwjtG0
そこまでは流暢ながらもやや真面目な面持ちで語っていた最高だが急に高笑いを上げるともう一度、今度は深く紺之介の頭に手を置いてそのまま髪をかき混ぜるがごとくわしゃわしゃと撫で回した。
紺之介「んぇっ……父上……?」
最高「でな? 俺はこの話を我が父……お前の祖父にあたる人から聞いたんだが、『故に我が家ももしかすると将軍様の血筋かもしれん』と言ってな? もしそうだったときのために子に釣り合う名を与えてやらねばならぬとして俺に『最高-もりたか-』と名付けたと言うんだ」
508:名無しNIPPER[saga]
2020/02/10(月) 19:12:08.39 ID:CaLDwjtG0
紺之介「んっ……」
眩しく晴れやかな朝日に当てられて紺之介は目を覚ます。ゆっくりと上体を起こし軽く伸びる。
心身共に重りを感じぬ己の足に彼は最後の旅立ちの風を乗せた。
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