422:名無しNIPPER
2020/02/09(日) 23:35:30.82 ID:0qU1zNu20
女中「失礼します。至高翌様のお守りを……」
愛栗子「ばかもの。坊ならもう寝付いたわ……それに何度も言っておるようにわらわは愛しき我が子にお守りなぞ必要とせぬ。必要となったならばこちらから頼むまでじゃ。散れ」
女中「ですが……」
423:名無しNIPPER
2020/02/09(日) 23:36:15.30 ID:0qU1zNu20
愛栗子から見て閉じられた襖の向こう側、彼女らの姿こそもう目に映りはしないが会話は薄い壁を通していまだ愛栗子の耳を触っていた。
「そのお客人というのは」
「例の東山道の妖術使いだ。魂を別の器に移すことで半永久的なものとする妖術とやらに将軍様は興味をお持ちになったようだ」
424:名無しNIPPER
2020/02/09(日) 23:37:59.13 ID:0qU1zNu20
そこで遣いの者の声量は格段に落ちたが彼女らの会話に少しばかり興味を抱いた愛栗子は赤子を寝床におろすと足早に襖へと聞き耳を立てた。
彼女もまた『不老不死』というものに若干の憧れを抱いていたのである。それもそのはずでこの頃既に自らの『美』が異様で異彩であると自覚していた愛栗子は老いていく未来に憂いのようなものを感じていたのである。
425:名無しNIPPER
2020/02/09(日) 23:38:54.78 ID:0qU1zNu20
「あまり大きな声では言えぬのだが、もしや愛栗子様はその妖術の試しにされるやもしれぬ。何しろあの美しさだからな」
「それ程愛されてらっしゃるということでしょう」
426:名無しNIPPER
2020/02/09(日) 23:39:36.68 ID:0qU1zNu20
「え」
「まあどうあれ私たちがどうこうできる問題でもないさ……さあ仕事だ。行くぞ」
427:名無しNIPPER
2020/02/09(日) 23:40:38.51 ID:0qU1zNu20
愛栗子「透! おるか!」
透水「ひゃっ……! あ、愛栗子ちゃん……どうしたの?」
愛栗子「手ぬぐいじゃ! 手ぬぐいを貸せ! それもなるべく大きな……そう、頭を広く包めるものがよい」
428:名無しNIPPER
2020/02/09(日) 23:41:36.52 ID:0qU1zNu20
愛栗子「はっ、はっ、はっ……」
愛栗子(確か、いつの日か駕籠の外から見た……ここらにあるはずじゃ)
確かな記憶を辿りながらそのあて求めて奔走する少女……時としてその姿は黒布など関係ないかのように民衆の目を集めていた。
429:名無しNIPPER
2020/02/09(日) 23:42:08.63 ID:0qU1zNu20
息も絶え絶え彼女が足を止めた場所は『用心棒』と書かれた小さな板を貼り付けた平家であった。
愛栗子「は、は……もし……!」
用心棒「んぁ〜? ぇ……」
430:名無しNIPPER
2020/02/09(日) 23:43:21.98 ID:0qU1zNu20
愛栗子「おぬし、看板からして護衛業の者であろう? ならば……ならばこの子を護ってはくれぬか! 詳しいことは話せぬ! 代も……今は急ぎで持ち合わせてはおらぬ! じゃが、どうか!!!」
彼女が己の意思で深々と頭を下げたのはそれが初めてのことであった。
用心棒「は……」
431:名無しNIPPER
2020/02/09(日) 23:43:50.71 ID:0qU1zNu20
用心棒「ハァ……わーったよ。代は、そうだな……いつかでいい。だが綺麗なお嬢ちゃん、アンタ自身で頼むよ」
酔った勢い口任せ。高位と美女には跪く。が、それらが男を筋の通った粋狂にさせるのだと後の時代でも語られる。故にこの時代の生き様を人はみな露離っ子と呼んだ。
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