370:名無しNIPPER[saga]
2019/10/01(火) 17:06:38.99 ID:htj7Q5Kz0
刃踏「お月様、綺麗ですか?」
愛栗子「まあの。じゃが月周りが少し雲がかって見えておる。明日は一雨くるかもしれぬの」
愛栗子は横顔に差し出された提灯の灯りに少し目を細めながらぼやを入れた。
371:名無しNIPPER[saga]
2019/10/01(火) 17:07:16.80 ID:htj7Q5Kz0
愛栗子「そちらから誘ったにしては随分と遅かったではないか。まったく、わらわの柔肌が羽虫にでもかまれたらどうしてくれるのじゃ」
刃踏「す、すみません。なかなかぺとちゃんを寝かしつけることができなくて……」
愛栗子ため息一つこぼし仕切り直す。
372:名無しNIPPER[saga]
2019/10/01(火) 17:08:11.41 ID:htj7Q5Kz0
刃踏「炉ちゃんと俎ちゃんが対峙したとき、炉ちゃんは『将軍さまの愛を受けるのはわたしだけ』と言っていたそうです。確かかどうかは曖昧だそうですが須木丸さんから聞きました」
小ぶり提灯に照らされた二人の影が土の上で揺れる。それを眺めたまま愛栗子は表情一つ変えることなく返答した。
愛栗子「なぜそれをわらわに言う。その話を報告すべきは紺じゃろう?」
373:名無しNIPPER[saga]
2019/10/01(火) 17:08:38.46 ID:htj7Q5Kz0
愛栗子「なぜわらわがそのことを知っておると思うたのじゃ」
愛栗子がそう振ってから刃踏が次に口を開くまでの間五秒間……二人の間には独特の緊張感が走っていた。
374:名無しNIPPER[saga]
2019/10/01(火) 17:09:19.40 ID:htj7Q5Kz0
刃踏「言ってしまえばずばり、勘です」
そうしてまた五秒の間。
しかしそれは先ほどのように緊張感から来たものではなく呆気にとられた愛栗子の倦怠感が作り出したものであった。
375:名無しNIPPER[saga]
2019/10/01(火) 17:10:21.85 ID:htj7Q5Kz0
愛栗子「……なんじゃ」
刃踏「……勘、でしたよ。さっきまでは……でもやっぱり確信に変わりました。だって炉ちゃんの所感は愛栗子ちゃんたちの旅が始まった理由に繋がることなんですよ? どんなに興味がなくなって、『ふーん』とか『へぇ』とか少しくらい言いそうなものじゃないですか」
愛栗子「それらを口や顔に出さなかったから一体なんじゃと? 別にわらわが奴の心中に興味がなかっただけの話じゃろ。ここに行くよう提案し情報から動機を確かめようとしたのは紺のためじゃ。分かったならはようその手をはなさんか」
376:名無しNIPPER[saga]
2019/10/01(火) 17:11:16.37 ID:htj7Q5Kz0
愛栗子「くどいぞぬし! 痛めてしまうではないか」
身体が駄目なら声。愛栗子が若干声を張り上げた後に刃踏はそれよりもさらに荒い声を張る。
刃踏「人が人を想う気持ちを愛栗子ちゃんが興味ないわけないじゃないですか!!!」
377:名無しNIPPER[saga]
2019/10/01(火) 17:12:08.06 ID:htj7Q5Kz0
愛栗子が刃踏の方へと向き直るとまた互いの顔が提灯の灯火に照らされる。
二人は互いの瞳の奥を覗いた。
378:名無しNIPPER[saga]
2019/10/01(火) 17:12:47.57 ID:htj7Q5Kz0
愛栗子「将軍様がわらわらをこの身に変えた順を存じておるか?」
刃踏「ええ、確か……」
愛栗子「わらわ、乱、透、奴、まな、ふみ、そして奴……炉の順番じゃ。どういうわけか幼刀を保護し続けた連中はこの順番を将軍様が大切にした女の順としておるようじゃがそれは全くの真逆じゃ……と言ってもぬしは人の身の頃からそのようなこと分かりきっておるか」
379:名無しNIPPER[saga]
2019/10/01(火) 17:14:17.42 ID:htj7Q5Kz0
愛栗子「つまり将軍様にとって一番の女だったのは奴……というわけじゃな。しかし将軍様が一度の唾つけ以降わらわを美術品のように扱ったことから幕府の連中が勘違いをし刀化の順をもソレと勘違いした。その噂を耳に入れてしもうたあやつは不安になったんじゃろうな……己が最も将軍様を想っておった故に」
愛栗子は呆れながらも哀しみの浮いた顔で呟いた。
愛栗子「少し考えればわかるじゃろ……将軍様にも人並みの心があったならば、情を吹き込んだ者ほど人の理から離れて欲しくはないじゃろて……なぜじゃ、なぜあやつもそれに早く気づかぬ」
380:名無しNIPPER
2019/10/01(火) 17:15:04.02 ID:htj7Q5Kz0
一通り愛栗子が胸の内を開くと確かめるように、刃踏が閉ざしていた口を重く開けた。
刃踏「……だから、炉ちゃんを壊そうとしてたんですね。将軍様の元へ炉ちゃんを返すために……炉ちゃんがまた大好きな将軍様に会えるように」
下げられた刃踏の顔には影が落ちる。
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