58:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:27:46.91 ID:TXxgAIfuO
きっと、あたたかな心を持つひとなのだろうと思いました。そうしてようやく、顔も見ずに話している無礼にはたと気付きます。
取り急ぎ、立ち上がって――目を合わせるや茫然として、自らを忘れました。
「でも、間に合ってよかった」と言うその顔は、慈しむように微笑んでいました。
59:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:28:58.71 ID:TXxgAIfuO
申し訳ございません、>>58はミスです。以下に訂正を。
60:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:29:47.58 ID:TXxgAIfuO
他人事であるはずなのに、その声は私の内情に優しく添うようでした。
きっと、あたたかな心を持つひとなのだろうと思いました。そうしてようやく、顔も見ずに話している無礼にはたと気付きます。
取り急ぎ、立ち上がって――目を合わせるや茫然として、自らを忘れました。
61:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:30:20.06 ID:TXxgAIfuO
「……セイラム?」
「うん。ひさしぶり」
「……本当に?」
62:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:31:51.68 ID:TXxgAIfuO
伸ばしてあった髪は潔いくらいにばっさりと短くなり、黒衣であることは変わりませんでしたが、修道服ではなく、本来私たちと交わるはずのないビジネススーツを着込んでいました。
それでも変わることはない彼女の本質が、そこに立っていたのです。
「クラリス」と、彼女が初めて私の洗礼名を呼びました。たったそれだけのことで、驚きと戸惑いも抑えて、嬉しい気持ちは溢れそうなほど。ですが、続いた言葉に気を引き締めました。
63:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:33:15.26 ID:TXxgAIfuO
それから、彼女は私に一枚の名刺を差し出しました。そこには「セイラム」ではなく、彼女の俗名が綴られています。
肩書きは、
「シンデレラガールズ・プロダクション、アイドル部門、プロデューサー……?」
64:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:34:23.34 ID:TXxgAIfuO
「いろいろあったんだ」と彼女は言いました。
私たちの教会を去ってから、彼女は紹介された修道会に一旦は身を寄せたそうです。しかし、そこで日を過ごすごとに、愛した場所との違いが目に入る。自分の本来の居場所がここではないと思い知る。決別は早かったそうです。
どうにかして帰りたかった。帰れないことだけは明らかだった。だったら、せめて外からでも力になろうと思った。
65:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:35:10.01 ID:TXxgAIfuO
「昨日やっと、プロデューサーとしてひとり立ちを認められてね。したらすぐ、担当するアイドルをスカウトするのが最初の仕事だって言われて。スパルタでしょ。まあ、それは都合よかったし別にいいんだけど」
しばらくぶりの彼女との会話に、時間を忘れるようでした。なにものにも代えがたい喜びに浸っていたところ、ふと、気になる言葉に引っかかりました。
「……都合がいい?」
66:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:36:09.53 ID:TXxgAIfuO
その質問は漠然としていて、すぐにこたえることはできませんでした。問いで返そうとする私を、しかし彼女の続く言葉が塞ぎます。
「あたしは、ひっどい間違いをしたよね。あたしがなんとかしなきゃって、ひとり思ってばっかりで、取り返しのつかないことして、結局余計に教会を追い込んだ」
「そんなことは……」
「それでも」
67:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:37:11.56 ID:TXxgAIfuO
「貴女の歌声を、活かしてみるつもりはない? あたしと一緒に……大切な場所を守ってくれるつもりは、もうないかな」
一度は間違えた。だけど、だから、もう間違えない。間違えさせないから。
呟きと共に、差し出された手。
73Res/52.75 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20